短編
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玄関を開ければ、そこには床に大の字になったサンジがいた。じとぉ、っとした目付きを私に向けて、渋々といった様子でおかえりとだけ声を掛けてくる。
「ただいま……?」
サンジは、ぷい、と拗ねたように顔を横に逸らして、だんまりを決め込む。今日は帰りが遅くなったわけでもないし、連絡だってしていた。なのに、帰ってみれば、金髪を床に垂らして、長い足は雑に投げ出されている。
「玄関で倒れてる理由を教えてくれるかしら」
「すねてる」
唇を尖らせ、全身で不機嫌を表すサンジが可愛らしくて、つい、笑みをこぼせば、金髪の隙間から覗く耳が熱を出したように赤くなる。
「……ガキみてェって思った?」
「そうね、少しだけ」
靴を脱ぎ、床に転がっているサンジの横に座り込む。
「何に拗ねていたのかしら」
「……おれの奥さんなのに、旦那を放置しすぎですよ」
一昨日はロビンちゃん、昨日はクソゴム、今日はナミさん、サンジは指折り数えながら寂しそうに共通の友人の名前を口にする。
「おれとも遊ぼ」
「ふふ、毎日一緒にいるのに?」
「毎日いても足りねェの」
欲しがり、そう言って頬をするりと親指の腹で撫でれば、君がいちばん知ってる筈だよ、とサンジは愛おしそうに私を見る。
「困った旦那サマね」
「そうだよ、おれは手が掛かんの」
「自分で言わないの」
肉の薄い頬を力加減無しでつまめば、愛の鞭がどうのこうのと騒ぐお喋りな口。
「サンジの話をサンジにしても意味無いじゃない」
騒音のような愛に隠すように独り言を呟けば、レディの涙の落ちる音すら拾ってしまう聴力に綺麗に拾われてしまった。
「お、おれの話……?」
「そう、サンジの愛が重いとか賑やかだとか」
一瞬にしてどんよりとしてしまったサンジの顔を覗き込みながら私はこう口にする。
「……でも、そこが好きって話」
サンジは床に片手をつき、器用に上半身を起こす。そして、もう片方の腕で私の腰を抱き寄せた。
「いつも、そんな話を?」
「知らない」
「おれには聞かせてくれねェの?ナマエちゃん」
耳元で囁くように甘えた声を出すサンジ、逃げ出そうとしても太い腕が腰に巻き付き、身動きすら取れない。優しいサンジが好きだよ、と言って逃げる事も出来るが、蔑ろの好きを渡したくない、と面倒な私が出てくるのだ。
「おれに関しての話なら、先におれが聞くべきだとおもうんだけどなァ」
こういう時のサンジは少し意地悪になる、いつものデレデレでトロトロな態度はどうしたのか、と言いたくなる程に男の面が顔を出すのだ。
「……意地悪は嫌よ」
「意地悪なんて、これっぽっちも」
ただ、放置された分、構って欲しいだけ、そう言ってサンジは私を抱き上げて歩き出す。下ろして、と足をバタつかせても、サンジは鼻歌混じりで短い廊下を進む。
「そっちは寝室よ」
「あ、先に風呂がいい?」
「そういう事じゃないわ」
サンジは寝室の扉を足で開くと、暴れる私を優しくベッドに寝かす。そして、片手で私の手首を拘束すると、にっこりと笑ってみせる。
「一晩中、おれへの愛を語ってよ」
お喋りだけじゃ、終わらなさそうなサンジの気配に苦笑いをこぼすと私は再度、困った旦那サマね、とその甘い雰囲気に飲み込まれてしまうのだった。