短編
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私とサンジの間には見えない白線が引いてある、それを引いた犯人はサンジ。この白線は分かりやすく此方に踏み込んで来るなと私を拒絶する、ナミやロビンと同じようにメロメロと鼻の下を伸ばされる事はあっても私に対しては本音というよりも一種のパフォーマンスのようだ。こうしておけばバレないだろう、という仲良し営業。サンジは料理以外も器用らしい、俳優のように演じる姿は見てて惚れ惚れしてしまう。私が気付かなかったら全部上手く回ったんだろうな、と思える程にサンジは器用に私への嫌悪感を隠して接してくれる。優しくて残酷な仕打ちはきっとサンジを好きになってしまった私への罰なのだろう、これはサンジからしたら迷惑以外の何物でもない好意だ。だから、お行儀よく私は白線の内側に立つ。これ以上は近付かないよ、と意思表示をするかのように両手を上げてサンジから遠ざける、この邪魔な好意を出来るだけ遠くに。
そんな無駄な抵抗をしながらもサニーは今日も海を進む、白線越しに遠ざかったり近寄ったりする私を嘲笑うかのように波は荒れ、足元を揺らす。海は気まぐれだ、先程まであんなに順調だったのに今や嵐に両足を突っ込んで航海の邪魔をしてくる。
「あ……」
「ナマエちゃん!」
海にはみ出しそうになった私の体はサンジの反射神経に助けられ、甲板に足を下ろす事が出来た。嫌いな人間でも目の前で死なれるのは後味が悪いものね、と一人納得していればサンジの腕が私を包む。
「近くに来て、もっと近くに」
「……へ」
「君がいるか確かめさせてくれ」
「ここにいるじゃない」
「……君がちゃんと無事か教えて」
雨で濡れたシャツ越しにサンジの鼓動が聞こえる、バクバクと通常よりも早い鼓動がサンジの焦りを教えてくれる。
「なんで……?」
「なんでって好きだからに決まってんだろ……!好きな子が死にそうになってんのに焦んねェ男がいんのかよ!?」
途端にサンジはしまったという顔をする。
「……言わねェつもりだったんだ、おれの好意は邪魔でしかねェから。もし、告白なんかして君が船から降りたらおれは一生、おれを恨む事になる。だから、君から逃げたんだ」
サンジは本当に俳優だった、白線の向こう側で勘違いを起こしていた私にはそんな好意ひとつも伝わってはいなかった。
「……分かりにくい」
「君は分かりやすいね、おれに嫌われてると思ってたろ?」
「あんな態度を取られたら誰でも勘違いするわ」
へにゃりと眉を下げたサンジは雨で張り付いた髪を掻き上げてごめんねと切ない笑みを寄越す。
「君から逃げたおれに幻滅した?」
「まだ」
「まだ間に合うかな?」
間に合うよ、そう言う代わりに私は初めてサンジに自分から抱き着くのだった。