短編
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花見のガヤガヤした賑やかな雰囲気も落ち着き、今は夜桜を楽しむカップルや酒を片手に桜をつまみにしている年配の男性が遠くに一人。私は仲間の輪から抜け出して、一人静かに人気の無い場所で桜を独り占めしている。ブルーのライトがピンクの花弁を照らし、青白く幻想的な光景が広がっている。ひらひら、と落ちる花弁を手のひらでキャッチして一人遊びに勤しんでいれば、強い風が私を迎える。身に付けていたストールを抑えながら花弁がひらひらと散っていく様に目を細め、あぁ、儚いな、と小さな声で呟けば後ろから背中に衝撃が走る。
「……サンジ?」
嗅ぎ慣れた煙草の香りに後ろを振り返れば、焦りの表情を浮かべたサンジがいた。
「もしかして、探しに来てくれた?」
そう口にした私にサンジは何も言わずにただただジーッと視線を寄越す。そして、暫くすると何かを確認するように私の頬に手を滑らせた。
「……消えちまうかと思った」
「誘拐されるほどヤワじゃないわ」
「違ェ、桜が君を連れていっちまうかと思ったんだ」
桜に攫われるような儚さは自身には無縁だと思っていたがサンジの言葉はどうやら嘘でも冗談でも無いらしい。その証拠に腰に回された腕も存在を確認するように何度も顔に触れる手も密かに震えている。
「怖かった?」
「あァ、今も怖ェ」
サンジの震える手をギュッと握りながら私は自身の熱をサンジの冷えた手にお裾分けする。
「ちゃんとここにいるわ」
「……黙っていなくなるのも無しだよ」
「次はサンジも連れて行ってあげる」
コクンと頷いたサンジは未だ迷子のような顔をしている。だが、気まぐれな春風はシリアスな展開を許してはくれなかった。
「ふふ」
「ナマエちゃん?」
急に笑い出した私にサンジは首を傾げる、その反動でサンジの金色に降り注いでいたピンクの花弁がひらひらと宙を舞う。
「まるで桜の精ね」
屈んで、とサンジの手を自身の方に引く。サンジは言われた通りに腰を軽く折り曲げると、されるがままの状態になる。
「お迎えのお駄賃のキスかな?」
「残念、あなたが桜に攫われてしまいそうだからよ」
「はは、おれが?」
「花弁にとっても好かれてるわよ」
軽口を叩きながら髪のセットが崩れてしまわぬように丁寧に花弁を取っていく。
「あ、もう!サンジ!」
サンジは届かない事を知っていながら折り曲げていた腰を元の位置に戻す、んーっと背伸びをして手を必死に伸ばす私にサンジはくすくすと笑う。
「もー、サンジ縮んで」
「君のポケットに入れるくらいに?」
「お馬鹿」
今だって十分ベッタリでしょ、と脳内のナミが呆れ顔を作る。いつもごめん、と心の中で手を合わせていればサンジの腕が私を抱える。
「は」
「これなら君は桜に攫われねェし、手も届くよ」
それにキスもし放題、と蕩けた笑みを浮かべるサンジに私もつい脳内のナミと同じ表情を浮かべる。だが、すぐに仕方ないわねとその緩んだ唇に口付けをしてしまったのはサンジに心を攫われてしまったからだ、とっくに私はサンジに攫われている。