短編
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喧嘩の元々の原因を辿れば大した事では無かった。ただ、売り言葉に買い言葉で止め時を失ってヒートアップしただけだ。普段だったらサンジが先にアクションを起こして謝ってくれるのが常だが今回はどうやらサンジも頭に血が上っているらしい。感情のやり場が分からなくなって情けなくメソメソ泣く私を寝室に残してサンジは寝室から出て行く。
「……ソファで寝るね」
こちらをチラリと見たサンジの瞳に私は息を呑む、そんな顔を向けられたのは初めてだったからだ。温度の無いサンジの無表情を拒絶するかのように視線を逸らせば、余程、私の態度が気に入らなかったのかサンジは私を見て、また顔を顰めた。乱暴に閉じられた扉はサンジからの明確な拒絶だ、私は引き止める事も謝る事も出来ずにベッドの上で鼻を啜った。一緒に暮らすようになって数ヶ月、二人は初めて別々の夜を過ごした。
朝が来ても、お互いの視線は絡まない。各自別々の朝食を用意し、無言で咀嚼する。朝食はサンジの仕事だ、だが、わざわざアンタの仕事でしょと問い詰める勇気は今の私には無い。一人分の端っこが焦げたトーストを何とも言えない顔で黙って咀嚼するのが精一杯だ。先に食べ終わったサンジは声を掛ける隙も無いくらいに素早く用意を済ませると鍵を持って玄関に向かう。靴を履く後ろ姿をジッと見つめていれば、サンジの視線が革靴から私に移った。
「ナマエちゃん、行ってくるね」
昨日とは違う優しい声に私は何も返す事が出来ず、サンジを凝視したまま皿にトーストを落とした。
「こら、そこはちゃんとしなきゃ駄目だよ」
サンジは腰に手を当てて私を真っ直ぐ見つめると、これがもし最後になったら悲しいじゃん、と苦い笑みをこぼした。
「……最後」
「例えばの話だけど絶対は無いからさ、おれは君と喧嘩したままじゃ嫌だよ」
「私も嫌よ、ちゃんとおやすみもおはようもいってらっしゃいもあなたの顔を見て言いたいわ」
椅子の下に転がしたままのスリッパに足を引っ掛けて、サンジに飛び付くような勢いで抱き着く。ふらりとよろける事もなく、サンジは私を軽々と抱き上げると猪みたいな勢いだねと茶化すように笑った。
「サンジごめんなさい」
「いや、あれはおれが」
「は?私よ」
鼻が触れ合うような距離で私達は自分が悪かったと反省の言葉を口にしていく、どんどんとヒートアップしていく会話にクスッと笑みをこぼしたのは同時だった。
「「負けず嫌い」」
ハモった言葉の後に降ってきた仲直りのキス、仲直りのキスを先に仕掛けたのは普段と同じくサンジだった。