短編
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サンジと私には二人だけの秘密がある、月に数回だけサンジが開く真夜中の即席バー。お客は私だけ、なんて贅沢なVIP待遇なのだろう。仲間の呑兵衛や宴好きな連中にも秘密にしているのは私がただサンジを独り占めしたいからだ。シェイカーを振りながら、こちらに優しげな視線を向けるサンジ。お喋りな私の話をうんうんと聞いてくれるサンジはマスターとしても生きていけそうだ。
「本業にしたら?」
「残念、おれはまだ海賊でいてェの」
それに、とサンジはニヤリと片方の口角を上げて私の目の前に一つのカクテルを置く。
「客は一人で十分さ」
目の前に置かれたブルーラグーンは透き通った海のような色をしている。グラスを手に取り、私は水面を揺らすように少しだけ動かす。
「ブルーラグーンの酒言葉知ってる?」
「カクテル言葉じゃなくて……?」
「あァ」
サンジの質問に首を横に振る。元々、私はカクテル言葉への知識すら持っていない。こういう知識はきっとサンジやロビンの方が詳しいのだろう。
「同じ星に生まれた仲間と共に歩む旅人っていうんだって」
「皆が聞いたら喜びそうね」
「恥ずかしいから秘密にしておいてね、レディ」
唇の前に人差し指を置いて、サンジは私に秘密を渡す。了解、そう言って私はその優しい秘密を胸の中にしまいこむようにグラスに口付ける。
「……ん、飲みやすいわ」
「アルコール度数は高いから気を付けて」
「珍しいわね、サンジが度数が高いものを出してくるの」
「あー、そうかな?」
その歯切れの悪さに吐き出せと言わんばかりに視線を向ければ、サンジは一言だけ口にした。
「誠実な恋」
「そっちはカクテル言葉かしら?」
「君をイメージしたカクテルを作ってた筈なんだけどね、作り手の気持ちが……」
「全面に出ちゃった?」
「ハイ」
いつまでも初恋気分のサンジはこうやってカクテル言葉で私に想いを伝える事が多々ある、その度に知識の無い私はこうやってあなたの気持ちを教えて、と強請るのだ。
「今日の気持ちも嬉しいわ」
サンジの口から知りたい私は敢えて自身からカクテル言葉を調べようとはしなかった、本の知識ではなくサンジが選んだ私への気持ちをサンジの口から聞きたい。カウンター越しに下りてきた唇は私の緩んだ口元に蓋をするように重なった。
「マスターの営業はこれで終了」
「早くない?」
「カウンター越しでの逢瀬はここまでだよ」
ここからはおれもそっち、そう言ってサンジは私の横に座ってマスターから恋人に変身するのだった。