短編
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鼓動の音が重なる、それを先に乱したのはおれの方だった。リズムを崩すように先走る鼓動は隣を歩く彼女にもきっと聞こえている筈だ、その証拠に彼女はおれを見上げて小さく笑った。
「ふふ、心臓の音が漏れてますよ。おにいさん」
「あれ?音漏れしてる?」
戯けた返事をすれば彼女は花が咲いたように笑う、満開の笑顔は豪快で何時までも見ていたいと思う。シフォンのブラウスを揺らし日差しという名のスポットライトの下を歩く彼女はまるで春の妖精のようだ。それを口にすれば、きっと失笑か爆笑の二択だろう。サンジは相変わらず詩人ね、と冗談として受け取られるのが目に見えている。
「今日も大音量だわ」
「それは君が綺麗過ぎるから」
レディという生き物は不思議なもので毎日表情を変えるのだ。昨日の彼女は昨日にしか出会えない、明日にはまた明日だけの美しさがある。
「今日は香水かな」
「……よく分かるわね」
間違い探しのように目を凝らさなくても彼女の変化はお見通しだ、だって君が思っているよりもおれは君を見ているから。おれの左側で鼓動を鳴らす君に毎朝新鮮な恋をする、昨日の恋に今日の恋を重ねれば自身の鼓動がまたボリュームを上げ、彼女の耳にまで届く。
「恋してるから分かるよ」
そう言って繋いだ手は彼女の手を包み込む為に生えてきたと言っても過言ではないくらいにピッタリとフィットする。ぎゅっと距離を縮めるようにその手を自身の方に引けば、彼女の鼓動が少しだけ早まる。おれの先走る鼓動を追い掛けて来る彼女の鼓動が愛しい、不揃いな音が忽ち綺麗な音に変わっていく。
「何年経ってもサンジは変わらなさそう」
「君への愛は変わらねェよ」
「ふふ、そこは心配してなかった」
だってこの恋は一生ものだってあなたが言ったのよ、そう言って彼女は微笑む。
「永遠を予約しようか、ここに」
「ポケットで眠っている指輪の出番ね」
「エッ!?」
私もあなたの違いには詳しいの、とウィンクを飛ばしてくる彼女には一生勝てる気がしない。一生のうち勝てる勝負は一つしかない。その勝負を仕掛ける為におれはポケットの中に手を入れて、未来を口にするのだった。君がいる未来、それだけで十分だ。