短編
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最初の印象を聞かれたら間違いなく軽い男だ、と私は言うだろう。器用に目をハートにしてあっちのレディ、こっちのレディに尻尾を振りながら胡散臭い愛を口にするサンジが最初は苦手であった。だが、それは長く続かなかった。サンジの愛の言葉や女性への賞賛は紛れもない本音だという事に気付いたからだ、一人一人の外見的特徴を瞬時に褒め、関わりが生まれたら内面の美しさを恥ずかしげもなく褒めて、慈しんでくれる男なのだ。きっと、この船に乗ってるクルーなら皆、理解している筈だ。
誰もいない甲板でうっかり溜め息をこぼせば、煙草を咥えたサンジがハリケーンのように現れて私の顔を覗き込む。
「大丈夫かい?」
「ふふ、涙じゃなくて溜め息の音まで聞こえるの?」
君に呼ばれた気がした、とサンジは眉をハの字にして未だ心配そうに私を見つめる。
「……さっきね、島に下りた時にナンパにあったの」
今にも罪無き島民をオロしてしまいそうなサンジの口に人差し指をちょんと当てる。黙って聞いて、と言えば納得していない表情で渋々頷くサンジ。
「下品な人では無かったわ、ちゃんとした人。ただ、口説き文句が貴方と違ったの」
「おれと?」
「貴方の賞賛や口説き文句を日常的に浴びているから全然キュンキュンしないのよ」
私はもう一度、溜め息を吐くとサンジのジャケットの裾を掴んで、こう続けた。
「サンジくんの言葉がなくなったら、わたし死んじゃうかも」
サンジは言葉無く悶えると自身の顔を両手で隠して、指の隙間から私を覗き込む。
「君はなんて可愛い事を口にするんだっ……!でも、大丈夫だよ、君を助ける為なら一生この口を閉じなくてもいい。それに、まだナマエちゃんに伝えたい事がごまんとある」
だから、死なねェでね、とサンジは私の頬を両手で包み込んで安心させるように笑った。私は頬を染めて、サンジの手の上に自身の手を重ねる。
「……サンジくんのせいでわたしのライフはゼロよ」
「え!?おれのせいでナマエちゃんが死んじまう!?待ってくれ、今からとっておきのナマエちゃんの可愛らしいエピソードをお披露目するから死なねェで!!?」
律儀にエピソードを話すサンジはまるでストーリーテラーだ、ストーリーテラーが話す内容に熱を上昇させた私の顔はきっと情けなくなっている。
「サンジくんの記憶力はどうなってるの」
「……君の事なら何でも、って言いてェ所だが、おれはそこまで利口な頭じゃねェんで……毎日、その、君の可愛かった所を思い出してる、忘れねェように」
毎日こんな言葉を浴びていれば、他の口説き文句なんて耳に入るわけがないだろう。私は言葉にならない声を口から漏らすと、サンジの胸板をポコポコと叩く。
「ナマエちゃん……?」
「もう、やだ。責任取って」
胸板に顔を埋めれば、ぎこちなくピシリと固まったサンジの体。
「せ、責任って結婚ってコト!?」
違うわよ、付き合う所からよ、と否定しようとした私の言葉を遮るようにサンジは大きな声を出す。
「する!します!させてください!」
見上げたサンジの表情は冗談を口にしているとは思えなかった、順番や当たり前を気にしていた私の方が馬鹿なのかもしれないと思ってしまう程にサンジの碧は正直だった。この人となら恋を蹴っ飛ばして、愛を手に入れるのも悪くないのかもしれない。コクリ、と頷いた私を抱き締めてサンジは甲板の上をくるくると回る。
「っ、危ないわよ」
「今なら何でも出来そうだ」
そう言ってサンジは幸せそうに笑った、私はきっとこの表情を忘れない。毎日、寝る前に思い出すのだ、そして、サンジが忘れた頃にとっておきのエピソードとしてサンジに話してあげよう、あなたの言葉に生かされている、と。