短編
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どちらが先に相手を好きになったか、付き合った今ではそんなのはきっと誤差でしかない。一ヶ月お互いの好きがズレていたって、これから幾らでも巻き返しが出来る。
「でも、悔しいんだよなァ」
おれが先に好きになりたかった、とサンジは言う。その些細な間で見逃した私がいる事がサンジ的には許せないらしい、その当時の自分自身の鈍感さにサンジは舌打ちをもらす。
「今と何も変わりないわ」
そう言って苦笑する私にサンジは首を横に振って、レディは毎日違う顔をする、と言う。違う顔とはどういう事だろうか、メイクの違い?表情?機嫌?思い付く限りの違いを口にしてもサンジはくすりと笑うだけだった。
「なぁに、内緒?」
「いや、たださ、最初は譲ったけど最後は譲れねェなって」
先ではなく最後、サンジの指す最後はいつなのだろうか。私はサンジの言葉の続きを待つ。
「毎日だから」
「毎日?」
「これ以上の好きなんてもうねェだろうなって毎日思ってるのに毎日、君がそれを軽々飛び越えてくる」
だから最後もまた恋しながら死ぬ気がする、とサンジは世間話をするようなテンションでそう口にする。熱烈な言葉をさらりと口にするサンジに私は言葉を発する事が出来ずにいる。あ、う、と拙い幼児のような声を出すのが精一杯だ。
「今の顔もキュートで好き」
きっとだらしない顔をしている、口だって開きっぱなしで滑稽だろう。
「……馬鹿にしてる?」
「してねェよ、可愛いなって」
私の頬に両手を添えて、顔を近付けるサンジ。愛おしげに片目を細めて、こちらを見つめてくる。
「んー、その顔も悪くねェな」
パンを捏ねるような手付きに私はされるがままになる、だらしない顔がもっとおかしな顔になっている筈だ。だが、正面にいるサンジの満足そうな顔を見て手を払う気にはなれなかった。
「……本当に良かったの」
「何がだい?」
「ホワイトデーのお返しが私で」
最初はバレンタインデーもホワイトデーも私の出る幕は無さそうだった、薔薇にお菓子に熱烈な甘い言葉。サンジは普段から与えるばかりで何も欲しがってはくれない、だから今回は最初から欲しい物を教えてくれと伝えておいたのだ。だが、サンジはそこでも無欲なお願いを私にした。君が欲しい、と。
「ホワイトデーは三倍返しが基本なのよ」
「おれは三億倍の君を貰っちまったけどね」
「……三億倍なんて大袈裟よ」
「いーや、君はきっとそれ以上だよ」
価値なんて付けれねェ程の宝だ、とサンジは言う。海賊にしては随分と無欲だ。
「来年は何をあげようかしら」
「君の人生とか?」
「残念ながら、もう貴方のものよ」
きっと死ぬまでこの男に勝てる日は来ないのだろう、最後の一瞬まで恋に溺れるのも悪くないのかもしれない。