短編
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能力者の自覚がないのか、定期的に海に落ちる船長を拾いに行くのは専らサンジの仕事だった。理由は単純、泳ぎが早く、マーメイドのように海の中を自由自在に泳げるからだ。今回もサンジは舌打ちを一つこぼすとジャケットを脱ぎ捨て、美しいフォームで海に飛び込んだ。そして慣れた手付きでルフィの腕を掴むと自身の肩に腕を引っ掛けて水面から顔を出した、ここまではよく見える光景だ。きっと、船上に戻って来たルフィはナミにキツく叱られ、サンジに蹴飛ばされる。だが、船上に戻って来たサンジは顔を顰めて一目散に男部屋に戻っただけでルフィを蹴飛ばしたりはしなかった。
すぐにその違和感の答えは出た、男部屋から戻って来たサンジは新しいワイシャツとスラックスに袖を通して肩を落としながら話し出す。
「……煙草がねェ」
どうやらジャケットではなくスラックスの尻ポケットに煙草を入れていたらしい、中身を確認すれば勿論中身は全滅。部屋のストックもどうやらタイミングが悪く品切れを起こしたそうだ。ヘビースモーカーのサンジが明日の島まで煙草ナシで生活するとなると相当のストレスだろう。あと半日どうやって喫煙衝動を抑えるか、サンジは濡れた前髪を片方だけ掻き上げると深い溜め息を吐いた。
「それで何でこんな事になっているのかしら」
「んー、癒やされたいから?」
サンジの意識を煙草から逸らすには私しかいないと抜擢された私はサンジの膝にちょこんと座り込み、撫でくり回され、キスの雨に濡れ、サンジからの愛のマシンガントークを受けている。
「本当に可愛い」
「ん……っ、もう、いきなりはやめて」
「確認すればいいのかい?」
耳元に顔を近付けて、サンジはそれはそれは甘い声で私にキスの確認をする。
「君のここにしたい」
サンジのカサついた指が私の唇を撫でる。ここにさせて、と続いた声はまるで私の答えを知っているかのように弾んでいる。
「今日だけよ、明日からは煙草に相手してもらうのね」
「おれは苦いのも甘いのも独り占めしてェの」
「……欲張り」
「甘いキスは君としか出来ねェから特別」
こんな表情で見られたらノーとは言えない、それどころか煙草にすら嫉妬してしまいそうだ。
「煙草」
「ん?」
「時々、無くなっても知らないから」
「どういう意味かな?」
「犯人は嫉妬に狂った私」
そう言ってサンジの唇に噛み付くようなキスを御見舞する、歯がぶつかるような苦い思い出付きのキス。これでどうだ、と言わんばかりに胸を張ってサンジを見つめれば、サンジはおかしそうに喉を鳴らして笑う。
「っ、くく、君って最高」
「煙草より?」
「煙草がライバル?」
「えぇ、今の所はね」
そんな馬鹿な張り合いを見せる私にサンジは顔をだらしなく緩ませて、ぎゅっと腕の中に私を閉じ込めた。一番は、その言葉の続きは顔を見れば一目瞭然だった。