短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「無駄遣いしてたら本当に言いたい時に言えなくなるわよ」
「愛に品切れは無いよ」
その言葉を信じたのが馬鹿だった、愛の品切れは想像よりも早く、そして愛が実った途端に消え失せた。付き合う前にしつこく言われた可愛いは幻だったのだろうか、二言目には可愛い、可愛いと自身を愛でてくれた言葉達は今、沈黙を貫いている。
「……釣った魚に餌をやらないタイプだなんて知らなかった」
不満げな声が無意識にこぼれる、そんな私の目線の先には見知らぬ女の子と仲良く喋るサンジの姿があった。きっと、また私にしたように愛を安売りしているのだろう。可愛い、君は地上に舞い降りた天使、君に出逢う為に生まれた、そんな軽い言葉を吐きながら浮気の誘いでもしているのだろうか。
「(なら、私となんて付き合わなかったら良かったのに)」
サンジみたいなタイプはきっとフリーの方が気が楽だろう、一品を頼むのではなく数種類の女の子をつまめるビュッフェスタイルのような恋愛の方が似合っている。私の視線に気付いたのか、サンジは女の子に一言声を掛けるとこちらにやってくる。悪びれる様子もなく、それどころか平然と私の名前を呼んでヘラヘラと手を振ってくる始末だ。そんなサンジの態度が面白くない私はサンジを置いてスタスタと先を急ぐ、もうほぼ小走りのような状態でわざと人波に紛れ込むようにして船へと急ぐ。こんなの無駄な抵抗だ、どうせ船に着いてしまったら逃走の理由を話さなければいけない。
意味の無い追いかけっこを終えて、無事に捕まった私は困惑と不安を一気に背負い込んだような表情を浮かべるサンジの前で身を小さくする。
「おれ、何かした?」
逆だ、何も言ってくれなくなった。
「……何も、」
ないじゃない、と言葉にしてしまえば後は簡単だ。つられるように不満が顔を出し、無言のサンジを責めるように音になる。
「釣った魚に餌はいらない?」
「っ、それは……」
「あなたは私を選ぶべきじゃなかった、それに私も」
後者は私の責任よ、と口にすれば続きを拒むようにサンジの指が私の唇に当てられる。
「言えなくなったんだ」
真剣な碧がこちらに緩く笑い掛ける、穏やかで儚い碧。
「全部薄く感じるんだ、君に伝える言葉にしては全部幼くて薄っぺらい。その結果、この気持ちを表す言葉を探してる間に君を失いそうだ」
「私は好きの一言で十分だった」
「おれは足りなかった」
だって君を愛してるから、そう言ってからサンジはまた苦い笑みをこぼす。おれが言うと重みが無いね、と。
「……今日だってナンパしてたわ」
「ナンパ……?あ!あの子は違くてあっちからナンパされたんだ!でも、おれには可愛くて世界一のレディがいるからって断ったよ」
「どうだか」
未だに疑惑の目を向ける私にサンジは呆れる事もなく、言葉を重ねていく。
「おれの腕の中にある日、天使が落ちてきたんだ」
「あ?嘘だって顔しただろ」
「でも本当だよ。あそこにいる彼女を見たら分かる筈さ」
こんな風におれは逆ナン相手に彼女自慢をするような馬鹿な男だよ、とサンジは言う。その場面を再現するサンジの顔は確かにあの女の子と話している時の表情と一緒だった。
「……そういうのは私に言いなさいよ」
薄っぺらくて軽い言葉でも音にすれば本当になるわ、なんてくだらない建前を盾にして私はサンジに向き直る。
「君を選んだ事、おれは後悔なんてこれっぽちもしてねェ」
今だって愛は切れてねェよ、ちゃんと君に向かってる、そう口にしたサンジは私の手を引いて自身の腕の中にしまいこむのだった。