短編
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一度躓くとそこからドミノ倒しのように答えが遠ざかる、先程まであったやる気は失せて何もかもを投げ出したくなる。もう止めだ、止めだ、とテキストを広げたテーブルの上に頭を預ける。端っこにはサンジが差し入れてくれたココアが置いてある、勉強熱心な君へのご褒美と言って入れてくれたマシュマロがぷかりとチョコレートの海に浮かんでいる。だが、こんなご褒美を貰えるほど頑張れていないのが現実だ。何度も書いては消したノートの一部が黒ずんでいるだけで答えは結局導き出せていない。
指でシャープペンシルを転がしながら、無気力になってしまった心の回復に努める。一度折れてしまった心を元に戻すには、はい、直ぐに、とはいかない。
「あれ、終わりかい?」
タイミング良く様子を見に来たサンジは私の横に座り込むと私の手元を覗く、先程から変わっていないページと転がるシャープペンシル。きっと何かを察したのだろう、崩れる私の頭に手を乗せてポンポンと優しく手を動かす。
「お疲れ様」
「……全然、頑張れてないわ」
「ここに頑張った跡があるけど?」
そう言ってサンジはノートの黒くなってる箇所を指で指す。
「分からなくて投げ出した跡よ」
「おれには君が何度もチャレンジした跡に見えるよ」
答えが出なくても君の頑張りが無くなるわけじゃねェよ、とサンジは視線を合わせて私に微笑む。サンジの優しさにポッキリと折れてしまった心が徐々に修復されていくようだ。
「ドミノ倒しみたいだな、って思ったの」
「ドミノ倒しかい?」
「途中までは順調なのに、一度躓いたら今までの過程も倒れて答えから遠ざかる感じが似てないかしら?」
「あァ、すげェ分かる」
「だから、疲れちゃったなぁって」
私に同調するようにサンジは力の抜けたような声で、疲れちゃったなァ、と口にする。ここであなたは疲れてないでしょと噛み付くような真似はしない、確実にサンジの方が疲れているから。それに一日の終わりに私の愚痴に付き合ってくれる時点でありがたい。
「……サンジ、ありがとう」
「ん?おれ?何もしてねェけど」
愚痴に付き合ってるつもりも私を励ましているつもりもサンジには多分無いのだろう、サンジの優しさは受けた方は特別だと感じるが優しさを分け与えるサンジにそんなつもりは一切ないのだ。きっと一からそう伝えたって、レディには笑ってて欲しいから、と答えになっていない返答が返ってくる筈だ。
「でも、私は救われたわ」
「はは、まだ最後まで救えてねェよ」
そう言ってサンジは私が転がしたシャープペンシルを拾い、お手本のような美しい持ち方でノートに何かを書いていく。
「これって……!サンジ分かるの?」
「あー、今チラっと見た感じだと多分」
自信はねェけどね、その言葉とは裏腹にノートを迷いなく埋めていくサンジ。躓くどころかゴールが段々と拓けていくようだ。
「ここ、多分躓きやすい。だから後でもう一回説明するね」
「先生」
「そういうプレイは嫌いじゃねェけど照れ臭ェね」
サンジは照れ臭そうに頬を掻くと、また問題に向き合う。ドミノはもう、倒れない。