短編
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珍しくサンジは怒っていた、元々朗らかなタイプでは無いしどちらかと言えば気は短い。だが、女性に対しては何をされても声を荒げたりはしない。冷静に助言をする事はあっても大体は女性側を怒るのではなく、相手の男性にキレ散らかすか自身が頭を下げる。それが自他共に認めるサンジという男だ。
怒りに任せて声を荒らげるサンジ、少なくとも彼女はこれまでこんなサンジを見た事はなかった。そして、その怒りを自身に向けられるとは思ってもいなかったのだ。
「あ、サンジ」
「黙ってろ、落とすぞ」
サンジの腕の中で彼女は静かに息を吐く、その慣れないサンジの温度の無い視線が気まずくて言いつけ通りに黙り込む事しか出来ない。とはいえ、サンジが言葉通りに自身を落とすとは思っていない。何故なら自身を抱える手だけが、いつも通り優しいからだ。先程だって彼女は突然抱えられた驚きにジタバタと暴れたが、そんな抵抗は効かないとでも言うように腕の力は緩まなかった。だから、余計に混乱してしまう。温度の無い視線に荒い口調、そして歩幅。普段とはあまりにも違う歩幅に彼女は気付く。いつも二人で歩いている時、サンジが自身の歩幅に合わせてくれてる事実に嫌でも気付いてしまう。
誰もいない女部屋の前に辿り着くと、サンジはドアノブを捻り、ドアの隙間に自身の足を差し入れてそのまま乱暴にドアを開いた。サンジは中に入ると迷いなく歩を進めて、彼女のベッドに真っ直ぐ進む。そして、彼女の体をベッドに下ろすと自身は背を向けてベッドの端に腰を下ろす。
「何であんなくだらねェ挑発に乗った」
「……あなたを知らない人間があなたを下げるのを見たくなかったの」
「随分とお人好しな事で」
サンジは彼女の方を振り返るとその細い手首に触れる、知らない人間が彼女につけた手形は真っ赤な紅葉のように彼女の細い手首を覆っている。
「おれがいなかったら痕だけじゃ済まなかった」
「えぇ、そうね。感謝してるわ」
「おれは感謝なんてされたくねェよ」
ただ、君が君を大事にしてくれるだけでいいんだ、そう言って視線を自身の爪先に向けるサンジ。
「大事にしてるわよ」
結局、一番可愛いのは自分だもの、と笑う彼女。その言葉が本当だったらこんなにサンジの心は傷付いていない、危ない目に合う前にちゃんと逃げてくれ、とサンジが頭を下げたって今のように心を鬼にして冷たく言い放ったって彼女は自分自身を可愛がるどころか、いの一番に自身が傷付く選択を選ぶ。
「……君がそんな人間だったら良かったのに」
「この一味にいる時点で答えなんて出てるわよ」
私も、あなたも、そう言って彼女は泣き出してしまいそうなサンジの背中に頬を寄せた。他人を優先するお人好しな彼女もそんな彼女を放っておけないサンジもきっと似た者同士なのだ。