短編
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サンジの女に媚びるような声も甘い囁きもゾロにとっては全て騒音だ。相変わらずナヨナヨした野郎だな、と寝たフリをしながら自身とは全く正反対の男の騒音に紛れる一つの音を探す。鈴の音のような小さな音だ、サンジが話すだけでその音は柔らかくコロコロと鈴を鳴らす。サンジが甘い囁きとやらを吐き出せば、途端に吃ったように鈴を不器用に鳴らす彼女にゾロはつい小さく吹き出した。
「(分かりやす過ぎだ、アホ)」
口パクでそう伝えれば、決してサンジには見えない位置で舌を出してくる彼女。だけど、彼女は気付いていない。サンジが彼女の表情を見逃さない事も一瞬だけ辛そうに笑ったのにも彼女は気付いていない、その想いが繋がっている事に気付いているのは鈴の音を愛したゾロだけだ。
種を蒔いて、水をやり、芽が出て、また水を、そんな繰り返しのように育てていった密やかな想いを伝える気はない。ゾロを理解している人間だったら、らしくないと笑うかもしれない。だが、ゾロが恋に気付いたのは自身に鈴の音を向ける彼女では無く、いけ好かないナヨナヨしたコックに鈴の音を鳴らす彼女の姿だった。だからだろうか、今の現状が腹立たしくて仕方ない。
「……それで、話って何だよ」
「てめェと話す内容なんて一つしかねェだろ」
「生憎だが、おれはまりもと話す趣味はねェよ」
こんなのはまだ序の口、二人の会話にしては平和な方だ。サンジは煙草の煙を吐き出しながら視線を足元に落とす。
「花畑だがてめェは馬鹿じゃねェ」
「おー、おー、喧嘩なら買うぜ?」
「……頼む」
「は」
「あいつを頼む」
ワノ国で出逢った侍達のようにゾロは腰を折って、頭を下げる。
「……てめェはナマエちゃんのこと諦めんのかよ」
「諦めねェ」
「はァ!?」
「うかうかしている間に取られちまうかもな」
ゾロは意地の悪い顔をして、そう口にする。それに対してサンジは行儀悪く舌打ちをこぼすと煙草の火を消して、ニィと片方の口角を上げた。
「いい事、教えてやるよ」
ナマエちゃんがおまえのことオニーチャンみたいだってよ、良かったな、万年オニーチャン、そう言ってサンジはゾロに背中を向ける。
「……悪いな、オニーチャン」
「てめェみてェな弟はいらねェ」
不器用な二人にはこのぐらいが丁度いい、お互いの背中を押す不器用な言葉に二人は似たような笑みをこぼすのだった。