短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サンジの背に張り付いて、もう今日は何もしたくない、と泣き言をこぼす。朝から動き回っているサンジの方がきっと大変で疲れている筈なのにサンジは私を抱き上げるとソファに座り込み、自身の膝に私を乗せる。
「後ろじゃ、君を笑わせてあげられねェから」
君はここね、とサンジは自身の膝をポンと叩くと柔らかな笑みを浮かべ、私をぎゅっと抱き締めた。人は心音を聞くと落ち着くと言うが、それは本当らしい。トクン、トクンと耳に響くサンジの生きる音、私が一番恋しい音だ。
埋めていた顔を離して、サンジの方を見上げる。その顔は私の弱さを笑うでも無く、ただただ優しく私を見つめていた。悩みの種を見透かされそうなその海のような碧は私に寄り添うように静かに私の様子を窺う。
「小せェ体で、いくつの荷物を抱える気だい?」
「……まだ、たくさん持てるわ」
押しつぶされそうになってサンジに逃げて来たくせに、と内なる私が呆れたように溜め息をつく。
「君のそれだけは信用ならねェよ」
むっ、とサンジに鋭い視線を送っても優しい顔を向けられるだけだ。
「……今の私ったら子供みたいだわ」
「おれには大人に見えるよ、もっと泣き喚いて我儘の一つでも言ってくれりゃァいいのに」
そしたら、レディを甘やかす口実が出来る、とサンジは私の頬を親指の腹で撫でる。
一生分の甘やかしを毎日毎秒世界のレディに向けて発信しているサンジの甘やかしを一番近くで受けているのは、きっと私だ。もうこれ以上、甘やかされても何も返せるものはないし、駄目になってしまいそうだ。
「○○ちゃんの荷物さ、おれの荷物と交換しねェ?」
「交換って……」
「秘密の共有さ」
悪くねェと思うんだけど、そう言ってサンジは荷物という最近の悩みを話し出す。普段あまり悩みや愚痴を口にはせず、自身の胸の奥にしまってしまうサンジの悩みとは何なのだろう。興味半分でそれに耳を傾ければ、いかに自身が私を愛しているか、あんな所が愛しい、可愛い、胸の中に詰まった愛情を砂糖でさらにまぶして提供してくるサンジ。
「そんなの、悩みじゃないわ……!」
「おれは君に首ったけで夜も眠れねェっていうのに、ナマエちゃんは責任取ってくれねェの?」
こんな色男を悩ませて、とふざけた事を口にするサンジに噛み付く私の顔にはもう暗い色は浮かんではいなかった、私の沈んだ気持ちはサンジの愛情という色ボケに上書きされてしまったらしい。
「お、可愛い顔になった」
「……特等席で笑わせてもらったから」
「おれの膝は君専用だから、いつでもどーぞ」
泣きたくなったら、ここで泣いてね、と私の両手を握って穏やかな笑みを浮かべるサンジ。
「ふふ、なら寝れない夜は私の膝を貸してあげるわ」
交換っこしましょう、と笑う私にサンジは鼻を押さえて、ぎこちない返事を返すのだった。