短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パシャリと音が鳴り、音の方に視線を向ければ見慣れた光景が広がっている。今日のメインディッシュとも言える綺麗な景色に背を向けて、サンジのカメラは私を写す。
「景色を撮りなさいよ」
レンズ越しにこちらを向いていたサンジはカメラを下ろすと、へらりと気の抜けたような笑みをこぼす。そんな柔らかな雰囲気を出したって誤魔化されないわよ、と意地を張って無言でその緩んだ顔を一睨みすれば、余計に穏やかな顔をするから解せない。
「景色よりも直ぐに移り変わっちまう君の表情の方がおれにとっては重要だけど?」
「……いつも見てるでしょ」
「今日は今日だし、明日の君はどんな顔でおれを見るんだろうね」
「今日と同じよ、きっと」
素っ気ない返事を返せば、楽しみだね、と弾んだ声が返ってくる。だが、私の表情一つでサンジの日常が変わったりはしない。カメラの中に収められた顔だってわざわざカメラを向ける程の表情はしていない、ありのままの自身がそこにいるだけだ。様々な景色の中で一人ポツンと面白みのない私がそこに立っている。被写体ならナミやロビンの方が向いているし、表情の賑やかさでいったらルフィやウソップの方が適任だ。そして、目の前にいるサンジだってスラリとした靭やかな身体は被写体向きだし表情の賑やかさでいったら誰もきっと勝てないぐらいには煩い。
「カメラ貸して」
「ん?いいよ」
サンジは首からカメラのストラップを外すとこちらにカメラを差し出し、使い方を軽く説明してくれる。
「君は何を撮るのかな」
「私のいつも見てる顔」
「へ」
口を半開きにしたサンジの顔をパシャリと写して、写真が写し出された画面をサンジに見せる。
「……君から見たおれって結構ブサイク?」
「ふふ、可愛いけど」
カッコよく撮って、と言いながらキメ顔を披露するサンジ。だけど、私はまだシャッターを押さない。
「ナマエちゃん撮ってる?」
「撮ってる」
嘘だ、今はシャッターを押すタイミングを探している。
「ナマエちゃん」
ここだ、と思った。甘い低音が私の名を呼び、自然な笑みがふわりとこぼれる。私が一番好きなサンジの表情。
「ねぇ、サンジ」
「なぁに」
私達はきっと同じ顔をしている。あなたが好きだと訴える瞳に君が好きだよと愛情を浮かべる瞳。一枚、一枚に愛情を閉じ込めて私達だけの景色を写す、君という景色をここに残す為に。