短編
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あぁ、もうやめてくれ、とサンジの口を塞ぐのは何回目だろうか。その度にサンジは顔をドロドロに溶かして、やだ、と聞き分けの無い返事を返す。
「それに私はまだ納得してない」
ジト目でサンジの薬指に視線を移す。そして再度、自身の薬指にはめられた揃いの華奢なリングを見つめる。将来を誓い合う為のリングは二人の未来を照らすように光に反射してキラキラと輝く。
「……サンジの誕生日だったのに」
「おれが欲しかったのは君との将来だもん、何も間違ってねェよ」
昨日サンジは一つ年を重ねた、宴好きの連中はサンジの誕生日に託つけて歌えや踊れ、飲んでは食べ、それはそれは盛り上がった一日だった。主役のサンジは主役のタスキを掛けたまま、これがおれの幸せだとでも言うような表情で普段通り給仕をして回っていたが宴の終了と共にキッチンに私を招いた。その時の私は少しだけ緊張していた、プレゼントであげたネクタイが予想以上に似合っていたせいか、それともキッチンにいるからだろうか。キッチンは私にとって特別なのだ、好きな人が好きな事を全う出来る場所。いつの間にか私にとっても安心出来る場所に変わっていた、ここにはいつだってサンジの優しさがあり、暖かな優しさが毛布のように私達を包んでくれる。
「来てくれたんだ」
「主役からのお呼び出しだもの」
「はは、誕生日ってのは気分が良いね」
「盗み食いも無かったし?」
誕生日以外もそうあって欲しいよ、とサンジは肩を竦めて苦い笑みをこぼした。麦わら帽子をかぶった我らが船長の食欲を止められるのはサンジの誕生日だけだ、主役の迷惑になるな、とナミが拳をチラつかせていたが明日にはきっと盗み食い常習犯は犯行を開始するだろう。
「同情するわ」
「ありがとう、レディ」
チラリと時計を見たサンジは穏やかな瞳をこちらに向けてくる。
「あと数分で今日が終わる、おれが特別になれる日だってあと数分だけ」
「また来年も誕生日は来るわよ」
「確かに、でも、今のおれじゃないと駄目なんだ」
「?」
「今のおれは君との将来が欲しい、一年なんて待ってられねェ。今すぐに君のここにこの輪っかをはめてェと思ってる」
まるで手品を披露するようにサンジは私の目の前にリングを差し出した。震える指先でそれに触れれば、内側にはお互いの石がはめてある。
「誕生石……」
「言葉でも良いって言われたんだけど、おれが愛を縮められなくて却下。この輪っかには荷が重すぎるってさ」
「……っ、もう、お店の人を困らせちゃだめよ」
「君はどう?おれの愛に困ってるかい?」
「幸せ過ぎて困ってる」
イエスの代わりに困り顔を浮かべてサンジを見上げれば、一生、君を困らせるおれを許して、と甘い笑みが降ってきた。
全世界に幸せを伝えたい、と言い出した昨日の主役は船内でも島に下りても指輪をわざとらしくチラつかせては私を奥さんだとハニーだと周りに言い触らす。その度に私は誕生日相手から高額な指輪を貰った事を思い出し、申し訳無くなるのだ。
「……君は嫌だった?」
「それは違うわ、ただ、あなたの誕生日なのに私が貰ってばかりだから納得がいかないの。指輪だって安物じゃないわ」
「安いよ、君の人生に比べたら」
君はおれが出逢った中で一番高価な宝だ、とサンジは言う。
「大袈裟、キザ、まゆげ」
「っ、くく、まゆげはやめて」
語彙が消えてしまった私を見て、サンジはくすくすと笑う。君が好きって言ってくれたからこの眉だってチャームポイントだよ、と一々恥ずかしい台詞を口にするサンジの口を両手で塞ぐ。困らせないの、そう言う私にサンジはまたへにゃりと顔を緩ませるのだった。