短編
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今回の誕生日はタイミングよく島に上陸出来た、計画性なんてあったものじゃない船長辺りはニシシと笑って、イイ感じのやつ探してくる、と船を飛び出して行った。イイ感じのやつ、それを当の本人に隠しもせず言い切れる根性は流石だと思う。それに対してサンジは煙草の煙を吐き出しながら、おう、期待しないで待ってる、と言葉とは裏腹に優しげに笑って片手を上げている。そして、ナミとロビンは一つのキーをサンジの手に握らせ、状況を上手く飲み込めていない私をサンジの目の前に突き出した。
「「へ」」
仲良くハモった私達にロビンはくすくすと笑い、隣に立つナミは仁王立ちでこう言い切った。
「島でイチャイチャしてきなさい、それはホテルのキー」
「イチャイチャ……?」
「船の上で出来ない事して来なさいって言ってんの!」
サンジは口をポカンと開けてナミを見ている、きっと私も同じような顔をしているのだろう。だが、今日の主役であるサンジが押されているこの状況に段々と笑いが込み上げてくる。
「ふふ」
「何笑ってんのよ」
「だって、主役が押されてるんだもの」
脳天気に笑う私につられたのか、サンジもくすくすと笑い出す。そして指に引っ掛けたキーを回すと、有難く受け取らせて貰うよ、と目尻を下げた。
そんなナミとロビンから始まった弾丸お泊り、ホテルに着いた私達はまたそこで口をポカンと開ける事になる。お金に厳しいナミが選んだとは思えないような豪華な造りにお互いの顔を見合わす。
「ここ本当にナミが?」
「……ロビンちゃんかな」
「誕生日って凄いわね」
「はは、ありがてェね」
そう言ってサンジはキャリーケースを持つ手とは反対の手で私の手を引いた。
「誕生日なんだから荷物ぐらい私が持つわよ」
「君はコックの大事な手を握ってて」
「サンジごと抱えてあげましょうか?」
「それはまた今度お願いするよ」
今はこっちね、そう言ってサンジは私の手にキスを落とした。そんなキザな仕草すら嫌味が無く、スマートだ。
船で出来ない事をして来なさい、とナミは言った。出来ない事、出来ない事、と一人ベッドの上で頭を悩ましていれば後ろからサンジが抱き着いてくる。そして、そのまま体勢を崩した私達はゴロンとベッドに転がる。サンジはシーツを引っ張り、シーツの波に潜り込むと私の唇に噛み付いた。
「ん……っ、もう、まだ明るいわ」
「キスだけ」
鼻が触れてしまうような距離まで顔を近付け、誰にも聞こえる筈なんて無いのに声を潜める私達。
「ふふ、ここは船じゃないのに」
「密会みたいで燃えない?」
「おばか」
サンジの高い鼻を優しく摘めば、痛ェ、と全然痛がっていない声が返ってくる、そんなくだらないやり取りすら楽しいのは今日が特別な日だからだろうか。
「……おれさ、誕生日なんて必要ねェと思ってたんだ」
今は勿論そんなこと思ってねェけど、そう言ってサンジは私の額に自身の額をコツンと合わせた。
「ロボットの製造日と一緒さ、工場でベルトコンベアの上を流れていった日なんて興味ねェだろ」
勝手に作られて、勝手に名前まで与えられて、設定通りに動かないと不良品扱いになる、とサンジは感情の読めない表情でそう続ける。
「だけどさ、今は不良品で良かったって思うんだ」
「不良品?」
「誰かの理想になれなくても、他人が求めたおれじゃなくても愛される事は出来るってちゃんと分かったから。それを教えてくれたのはお母さんにジジイにルフィ、仲間」
惜しみない愛をくれる君、とサンジは柔らかな笑みを浮かべた。
「今はね、誕生日が来る度に生まれて来て良かったって思えるよ」
「……サンジ」
居心地が悪そうに自身の生まれた日から目を逸していた過去のサンジはもう此処にはいない。
「ん?」
「あなたが此処にいる事が嬉しいわ」
愛させてくれてありがとう、そう言って目の前の揺れる碧を見つめる。ぽろり、と瞳から溢れた海がサンジの頬を濡らした。愛しの私だけのオールブルーへ、愛を込めて。