短編
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昔からそうだ、サンジが好きになる相手にはいつも一番がいた。自身とは真逆の一番、どれだけ尽しても愛を囁いてもサンジの手の中には誰も落ちてこない。相手の横にはいつも硬派で愛を囁く才能が無さそうな不器用な男がいる、今回だってそうだ。彼女よりも剣術に魅せられているような藻に彼女は勿体無い、と思いながらも彼女の片思いを応援してしまうのは他の男に恋をする彼女に恋をしているからだ。彼女の幸せの為ならサンジは道化師にも恋のキューピッドにもなれる、彼女が望むならストーリーテラーにでもなって恋の結末を書き換えたっていいと思っている。
「……君にはハッピーエンドがお似合いだ、プリンセス」
サンジは頬杖をつきながら、島を見つめる。島には自身と約束をした彼女、自身の代わりに待ち合わせ場所に置いてきた剣士。迷子になるな、ここから動くな、彼女を泣かすな、と口酸っぱく伝えたつもりだが大丈夫だろうか。そんなに心配なら二人を近くで見守ればいい、だが、今のサンジにはこれが限界だ。彼女の背中を押したいのに彼女を幸せに出来る男が羨ましくて憎くてまともに二人を見守る自信が無いのだ。
煙草の煙を燻らせながら甲板に座り込むサンジ、そんな腑抜けた様子じゃ見張り番を買って出た意味が無い。
「……駄目だな、おれは」
「ドタキャンした挙句に一服とは良いご身分ね」
そんなサンジの腑抜けた横っ面を張ったのは島にいる筈の彼女だった、気の強そうな視線はいつも以上に厳しく冷ややかだ。
「……ナマエちゃん、なんで」
張られた頬を押さえながら、サンジは彼女を見つめる。
「変な勘違いしないで」
「勘違い?」
「ゾロの事よ」
「……お節介だったよね、ごめん」
サンジは煙草を消すと彼女に頭を下げる、部外者が掻き乱してごめん、と。サンジ自身が彼女を想ってした事でも彼女にとったら最善では無かったのだろう、サンジは自身の浅はかさに顔を顰める。
「サンジと島を歩きたかった」
「へ」
「だからデート!デートしたかったの!」
アンタと、そう言って彼女はしゃがみ込んだ体勢のまま自身の膝に顔を埋めた。長い髪の隙間から見える耳は赤く染まったまま、熱が引くにはまだまだ掛かりそうだ。
「マリモじゃなくて、おれ?」
「……結構アピールしてたんだけど」
「いつも、一番がいたから」
好きな人にはいつも一番がいた、どれだけ愛を囁いてもおれの言葉は流されちまうのに、不器用な一言を呟いただけでソイツらの言葉は大事にされるんだ、とサンジは苦笑いをこぼす。
「おれの愛は安っぽいから」
「私はサンジの愛情深い所が好きだよ、過去の言葉に嫉妬するくらいにはね」
「……ナマエちゃん」
「流れていかないように瓶に詰めるわ」
一字一句残らずに、そう言って彼女はサンジの碧眼を見つめる。へにゃりと泣きそうな表情を浮かべたまま、サンジはこう口にした。
「おれを君の一番にしてくれねェかな」
「……とっくに一番だよ」
「おれも君が一番すき」
言葉が流れていかないように二人は互いの唇に触れる、瓶に蓋をするように熱を交換し合うのだった。