短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日は冬の恋人の日らしい、二月のバレンタインから三月のホワイトデーまでの間、恋人同士の絆を深める日を、と決まったそうだ。私はサンジがペラペラとうんちくのように語るこの日の由来をうんうんと聞きながら、サンジの肩に頭を寄せる。海賊であるサンジにはきっといらない知識だろうが恋や愛に全力で生きているサンジには必要な知識なのだろう。その全力の向く先が自身である事がむず痒くもあり、私は興味が無いフリをしてやり過ごす。へー、そんな日が、なんてワザとらしい相槌を打ちながらサンジからの恋人扱いを待つ。うんちくよりも愛の言葉を吐き出す方が様になる男だ、何千通りと言うのは大袈裟だがサンジからの愛の言葉はいつだって新鮮でサンジと付き合っていなければ一生聞けなかったであろう台詞のオンパレードだ。
前髪の隙間から覗く額にサンジの唇が触れる。擽ったさに身を攀じれば、こーら、動かねェの、と柔らかな声が私を捕まえる。
「冬の恋人らしくイチャイチャしようぜ?」
「年中してるでしょ」
「おれの愛は年中無休なの」
戯れるように顔を近付けて、鼻先がぶつかる位置でいちばん愛しい人の顔を眺められるのはきっと幸運な事だ。ふにゃりとだらしなく溶けていく顔も精一杯格好を付けた顔も年中無休で私に向けられている。
「甘い顔」
「甘いマスクって事?」
黙っていればね、と言うのはきっと野暮だ。私は曖昧に頷くと甘い表情を引っ提げたままのサンジを見つめる。
「君だって甘いよ」
「相手がサンジだから」
「ずるいレディだ」
そう言ってサンジは私を腕の中に招き入れる。私は腕の中の定位置を探すようにモゾモゾと体を動かして、その分厚い胸板に頭を預ける。見た目よりも随分と厚いそこは力を抜いているせいか随分と柔らかい。
「何でサンジはこんなに大きいの」
幼い頃に読んだ童話に似たような台詞があった事を思い出す、相手は凶暴な狼ではなく躾けられた犬と言った方がピンと来る。サンジも童話を知っているのだろう、ニヤリと片方の口角を上げて私の耳元に顔を近付ける。
「君をこうする為だよ」
口は君にキスする為、そう言って耳朶に触れては一瞬で離れていく唇。耳は君の愛を受け取る為、そして目はいちばん近くでナマエちゃんを見る為、とサンジは言葉を続けた。
「何ていうか、その、サンジは私と出会えて良かったね」
逆だ、出会えて良かったのは私の方だ。サンジと出会わなければ愛なんて不確かな物を信じ切れなかっただろう。
「あァ、口も耳も無駄にせずに済んだよ」
揺れた前髪の隙間からサンジの両目がちらりと顔を出す、愛おしいと謳うように私を見つめる瞳。
「ねぇ、サンジ」
「ん?」
「私も無駄にせずに済んだよ」
口はサンジに分かりにくい愛を伝える為、耳はサンジのキザったらしい愛を聞き逃さない為、目は好きな人を見る為。そして、腕は自身の運命を見つける為にある、そう言って私は自身の運命に口付けを落とすのだった。冬の凍てつく寒さを溶かす程の熱を交換する為に。