短編
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『風邪、引いたかも』
くどい程のハートマークは無く、至ってシンプルなメッセージ。普段の何倍も素っ気ない文章にサンジの重症を悟る、きっとあの日のせいだ。肩に雪を積もらせて、背後に雪を舞わせたあの日から数日が経っているが疲労も相まって今頃、症状が出てきたのだろう。
『お大事にしてね、欲しい物があったら連絡して』
定型文のような返信しか出来ない自身の可愛げのなさに溜め息をつき、スマートフォンの画面を閉じようとすれば直ぐに通知が来る。
『きみ』
『ナマエちゃんがいい』
ポコ、ポコと左側にメッセージが浮かぶ。変換すらしんどいのか全文ひらがなのそれは相変わらずで私はつい笑みをこぼす。
『今から行くね、何か食べたいものは?』
風邪の時は、うどん、お粥、あとは何だろうか。食べやすそうな物を脳内に浮かべながらサンジからの返信を待つ。
『きみ』
黄身?そう言って冗談のように受け流せばいいのに、スマートフォンの向こうで弱っているサンジの顔を想像したら受け流す気にはなれなかった。
『キスぐらいなら』
挙げ句の果てには風邪引き相手にこんな馬鹿な提案を持ち掛けている。これじゃ、伝染せと言っているようなものだ。
『はやくキスしにきて』
感染っちゃうよ、君に辛い想いはさせたくねェから、そんな言葉が返ってくると思っていた。優しい優しい王子様はいつも私の事を最優先にしては自身の事を二の次にする、本音も言いたかった我儘も。だから、こういう機会がなければサンジを甘やかす事すら出来ない。
『待ってて、王子様』
サンジのお伽噺のような甘さが私にも移ってしまったのかもしれない、いつも私をお姫様扱いする王子様。そんな柄じゃねェ、と苦笑いをこぼすのだろうか。それとも君だけのプリンスになれるなんて光栄だ、と満足げに微笑むのだろうか。既読が付いたメッセージを閉じてコートのポケットにスマートフォンをしまう。
スーパーに寄って、それから王子様が眠る城に向かえば顔を熱で赤くしたサンジがやけにめかし込んだ格好でベッドに眠っていた。カッコつけのサンジらしくて場違いな笑いが自身の口からこぼれたのだった。