短編
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ただのバラエティー番組だ、最近よく見る人気芸人の面々と大御所MCに人気アイドル。そこにいるのは全員男性、女性禁制だというその番組は中々に濃い。主に恋愛話や女性について交わされる芸能人達の会話。夜の営みについて飛び出せば、ここにサンジがいたらきっと耳を塞がれていただろうと思える程にはえげつない。
『月に何回も会いたくない』
縛られたくない、とヘラヘラ笑う芸人に一同は一斉に自身の考えを話し出す。毎日会いたいと言ったアイドルは点数稼ぎを疑われて首を左右に振っては勢い良く否定する。
「毎日、君に会いたいよ」
「閉じ込めちまいてェ」
「朝から晩まで君の事で頭がいっぱいだ」
このサンジの言葉も点数稼ぎだったりするのだろうか、それか私へのご機嫌取りか、サンジの気持ちを疑いたくないのにテレビの向こうで笑う人間達がそれを否定する。チャンネルをさっさと変えればいいのに、私の手にはチャンネルを変えるリモコンではなくスマートフォンが握られていた。普段だったら絶対に遠慮する時間だ、サンジだってまだ家に着いてすらいないだろう。なのに、私はメッセージアプリを開いて通話を押している。
数回のコールの後に出たサンジの声には疲労が滲んでいた、サンジの後ろでは賑やかな声がポンポンと飛んで未だに職場にいる事が分かる。
「ナマエちゃん、どうしたの?」
普段、自分からあまり連絡を取らない私を心配したのだろう。サンジの声に心配の色が浮かぶ。
「あ、間違って押しちゃったみたい」
忙しい時にごめんね、とサンジの言葉を遮るように矢継ぎ早に言葉を重ねて私は一方的に電話を切った。
「あー、やらかした」
ソファの上で膝を抱えて私はひとり後悔を募らす、サンジを疑った事もそうだが、忙しく働いているであろうサンジに要らぬ心配を掛けてしまった事もだ。それこそ、面倒くさい女じゃないか。
もう既に番組は終わり、報道番組に変わっていた。どうやら各所で雪が降っているらしい。この地域にも雪マークがつき、明日の交通機関に影響が出るかもしれないとアナウンサーは言う。ぼーっと雪の予報を眺めている私の耳に突然チャイムの音が届く、来客の予定なんて勿論ない。それでも確信があった、優しくてレディファーストの恋人はあんな下手な誤魔化しに誤魔化されてくれる程、優しくない事を。
「来ちゃった♡」
語尾にハートマークを付けて、肩に雪を積もらせた恋人。背景では未だに雪が舞い、アナウンサーが言っていたような世界が広がっている。入っていいかい、そう言って私の顔を覗き込むサンジに静かに頷けば、嬉しそうに笑って体についた雪を払う。
サンジのコートをハンガーに掛けて、二人はリビングのソファに並ぶ。サンジの手は先程から私の髪を撫でたり、空いた左手を繋いでみたり好き勝手に私に触れる。どうしたの、だとか電話の意図だとか聞きたい事は山程ある筈なのにサンジは無理に暴いたりせずに私からの言葉を待っている。
「……電話いきなりごめんね」
「君からの間違い電話なら四六時中受け付けてるよ」
「サンジのそれは冗談?」
「おれは冗談で君に愛を囁いたりしねェよ」
ぜーんぶ本当、そう言ってサンジは私を抱き上げて膝に座らせる。
「毎日、私に会いたいのも?」
「あぁ、朝から晩まで君といてェ」
だから時々こうやってサプライズでおれが現れても追い出したりしねェでね、とサンジは口にする。
「しないよ」
「なら、良かった」
「だって追い出しても朝まで玄関前で粘りそうだもの」
そう言って茶化す私にサンジは安心したような表情で、今日は雪だから勘弁してね、と笑った。