短編
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今日のおれは猫だからよろしく、そんな台詞と同時に膝に飛び込んで来たサンジの金色の髪を梳くように撫でる。台詞の意味には深く触れずにサンジの手が導く場所に触れる、そうすればフフンと満足気な表情でサンジは鼻歌をこぼす。流行りのラブソングが私の耳に甘く響く、ありきたりな甘い言葉が並んだそれはチープであまり好きでは無かった筈なのに歌う人間が代わっただけでスタンディングオベーションをしたくなる出来に様変わりする様子は中々興味深い。
「今日のサンジは甘えたな気分なのかしら」
「ちげェ、おれは猫」
「猫さんの耳はどこにいったのかしら?」
わざと意地の悪い質問をすればサンジは、あー、と視線を逸して片手を頭の横に添える。そして、その手を猫耳に見立てて、にゃんにゃん、と甘えたような声を出す。そして、撫でるのを放棄していた私の手を空いた手で掴んで自身の頭の上に乗せると撫でろと言わんばかりに目を閉じるサンジ。
「どっちかと言えば犬じゃない」
「はは、犬って呼んでくれてもいいよ」
「今は猫でしょ」
サンジのお馬鹿な発言にも随分と慣れた、普段が常識人の分、多少言動や行動がおかしくても気にならなくなってしまった。
「今日さ、にゃんにゃんにゃんの日で猫の日なんだって。語呂合わせってやつ」
「だから、いきなり猫?」
「そ、あと、おれって猫っぽくねェ?」
野良猫が女神に絆されて今じゃ立派な飼い猫サマだよ、そう言ってサンジは擽ったそうに笑う。野良犬の間違いでは、と的外れな考えが浮かぶ私もきっと大概だ。
「私の事、ご主人様って呼んでもいいわよ」
膝に寝転んだサンジにドヤ顔でそう言い放てば、ナマエちゃんといつものように名を呼ばれる。
「ご主人様」
「ナマエちゃん」
「ご主人様」
「言われてときめくのは?」
分かりきった答えを導き出すようにサンジは私にそう問い掛ける、それに少しの間を空けて私は口を開く。
「……ナマエ」
ご主人様なんてふざけた呼び方じゃなく、いつだって胸をギュッと掴むのはサンジの甘い声が紡ぐ自身の名だけだ。ほらね、と表情筋をくしゃりと緩めるサンジに私はいつだって勝てない。その笑みが、ナマエという名を口にするサンジの甘い音が、私への気持ちを暴露するかのようにこちらに向かってくるから私は何も言えなくなってしまう。
「……猫さんなんだから喋っちゃ、だめ」
指をクロスさせてバツ印を作るとサンジの唇の前に突き出す。だが、サンジは愉しげに笑うとバツ印を作る私の指に唇を重ねた。
「フッ、今だけ人間に戻っていいかい?」
「だめ」
「可愛くしてっからさ」
人間でも猫でも愛してくんねェかなァ、とサンジは私の腰に甘えるように腕を回すのだった。