短編
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鏡よ、鏡よ、鏡さん、そんな言葉から始まるお伽噺のワンシーンを真似てみる。そして、この世で一番美しいのは誰か、と私は口にする。鏡の代わりに私を映したのはサンジの瞳だった、澄んだ碧に浮かんだ私は何処にでもいそうな普通の女の子。目立った特徴も無いモブだ、お伽噺の悪い魔女にも美しいお姫様にもなれない村人候補。
「間違いなく君だよ、レディ」
サンジの瞳には嘘が無い、これだってきっと本当だ。
「口が上手で助かるわ」
「……ナマエちゃん」
信じてねェだろ、と私の頬に手を添えるとサンジは自身の額をコツンと私の額に重ねる。
「君の瞳の美しさに夜空だって尻尾を巻いて逃げ出すよ」
「空に尻尾なんて無いわ」
「おれ達が知らねェだけかもよ?はは、なんてね」
サンジはそう言って笑うと、頬に添えていた手を私の髪に絡ませる。梳くように指を通すと、綺麗だよ、と囁いて髪に唇を寄せ、まるでお伽噺の王子様のように顔を緩めるのだ。
「その唇には毎秒キスしてェなって思わせる効力がある、笑顔だってセクシーだよ。君は嫌だって言うと思うけど、少しだけ覗く前歯が可愛くて笑わせたくなる」
そうやってメイクの度に変じゃない?おかしくない?って不安げに聞いてくる君だっておれは好きだよ、とサンジは言う。
「ふふ、何でも好きじゃない」
「お、正解」
「否定しなさいよ」
「君への愛は否定出来ねェよ、嘘偽りのないおれの本心さ」
それに君のありのままの美しさもね、そう口にするサンジ。サンジがお伽噺の鏡だったら、きっと傷付くレディは一人も出なかった。暴走するお后様に城を追われるお姫様、二人は違う形で幸せになれた筈だ。つくづく、魔法のような男だ。レディの絶対的味方であり、レディの良き理解者。
「……悩んでた私が馬鹿みたい」
ありのままの私ごと愛してくれている事を知っている、それが紛れもない純度一〇〇パーセントの真実だという事もサンジを見ていれば直ぐに分かる。
「悩んだらおれを見て」
「聞くじゃなくて……?」
「君を見つめるおれは分かりやすいから」
毎秒、君に惚れてはハートをこぼしてる、とサンジは言う。その碧は確かに分かりやすく私に恋をしている事を熱心に伝えていた。
「素敵な君を一番近くで見れる幸福に感謝を」
そう言って、私をふわりと抱き上げたサンジは誰から見てもお伽噺の鏡ではなく王子様のようだった。