短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
買い出し組なんて呼ばれるくらいにはサンジの買い出しに付き合っている自覚がある。勿論、女である私にサンジが買い出しに付き合えと言った事はない。それどころか毎回、サンジの腕から買い物袋を奪い取り自主的に荷物持ちになろうとする私に慌てた表情であたふたと騒ぎ立てる始末だ。
「大袈裟ね」
「君の華奢な腕に買い物袋は似合わねェよ」
「なら、何が似合うかしら?」
「おれの腕とか?はは、なんてね」
君が腕を組みたくなる日まで腕は空けておくよ、とサンジは言う。そんな意味深な言葉を吐きながらサンジは私の腕から買い物袋を抜き取って、先を行ってしまう。お互いの足のコンパスの長さはまったく違うのに私が簡単に追い付けてしまうのはサンジの優しさのお陰だ、今だって先に行ってしまったのは私に荷物を持たせたくないからだろう。
「もう追い付かれちまった」
「最初から逃げる気なんて無いくせに」
「……おれは追い掛ける方が得意だから」
何を、と聞く私にサンジは穏やかな笑みを向ける。
「君を」
「は……今、なんて」
突然の事に動揺した私は思わず聞き返す、追い掛けるとはどういう意味なのだろうか。
「君のことが好きで仕方ないって意味」
「冗談……?」
「おれは世界中のレディが好きだ、だけど本命は間違ったりしねェよ」
サンジが冗談でこんな事を口にするとは思っていない、軽そうに見えてサンジは意外と一途な男なのだ。だが、信じきれない気持ちも無いわけではない。それはサンジのせいではなく、私の自信の無さだ。ナミやロビンと常日頃生活していると自身の女子力の無さや不甲斐なさが浮き彫りになる、何故あの二人のどちらかではなく私なんだ、とサンジの気持ちを疑う私が顔を出し始める。
「(何でなんだろ……)」
ジッとサンジの顔を見つめていれば、段々とサンジの頬が赤く染まっていく。
「……えっと、今のおれ酷ェ顔してるからあんま見ねェで」
サンジからの告白を何度も何度も反芻する頭、視界にはあまり見ないサンジの表情。そして、関係を壊すぐらいなら、と捨てようとした恋心。きっと今、私だって酷い顔をしている筈だ。
「サンジ、実は」
「ま、待って!まだ返事は大丈夫だから!」
「……え?」
疑問符を飛ばしながらサンジを見れば、サンジは先程よりも余裕が無い表情で私を見る。
「君がおれをそういう目で見てないのは分かってる……でも、おれは諦めが悪ィからさ、ちょっとの間だけでいいからおれの事をそういう対象として考えてみてくれねェかな」
最初は混乱していた筈なのにサンジの的外れな言葉に段々と私は冷静になっていく。何も分かっていないサンジの段々と下がっていく顔に両手を添えて視線を合わせる、少しだけ涙の雫が浮いた碧は戸惑ったように揺れている。
「腕を組むならサンジがいいって言ったら分かるかしら?」
「……もう一声いいかな」
「サンジになら捕まってもいい、なんてどう?」
サンジの手が私の手首に触れる、まるで自身の体が壊れ物になったかのような繊細な手付きについ笑ってしまう。そんなソフトタッチじゃ逃げられちゃうわよ、と笑う私にサンジは少しだけ手の力を強くした。
「に、逃げない?」
逃げないわ、そう言ってサンジの空いている腕に自身の腕を絡ませた。片方の腕で買い物袋を持って、片方の腕で私をエスコートするサンジ。次からの買い出しはそれで決まりだ。