短編
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「疲れた?おっぱい揉む?」
派手な音を立てて床に叩き付けられたティーカップはサンジの手から滑り落ちたものだ。だが、サンジは足元に転がった硝子に見向きもせず、私の顔を信じられない物を見るような表情で凝視している。そして、チラリと視線をニットワンピース越しの私の胸に落とし、煩悩を振り払うように頭を左右に振るサンジ。駄目だ、駄目だ、と独り言を繰り返して後ろを向こうとするサンジに急いでストップを掛ける。
「サンジ!足元!」
「へ」
気の抜けたような返事を返すサンジの足元を指差して、硝子と伝えればサンジは初めて気付いたような反応をする。この調子じゃ大事なコックの手に傷が付いてしまいそうだ。私は袖を捲くるとサンジの足元にしゃがみ込み、硝子の破片を一つ一つ摘んでいく。
「ナマエちゃん危ねェって!」
「今のサンジの方が危なっかしいわ」
私の言葉に反論出来ないのはサンジ自身にも自覚があるからだろう。サンジは口を噤むと私の正面にしゃがみ込み、硝子に手を伸ばす。お互い黙り込んだまま、黙々と破片を片付けていく私達。
最後の一欠片に伸ばした腕は硝子に触れる前にサンジの右手に握られていた。それにつられるように顔を上げれば、サンジは拗ねたような照れたような形容しがたい表情でこちらをジッと見ていた。
「なぁに?」
「……あぁいうのさ、君は誰にでも言うの」
「あぁいうの?」
「……おっぱい揉むとかさ、そういう事」
私はそんな痴女じゃないと言いたい所だが、急にあんな事を言われれば勘違いしてしまうのも無理はない。
「言わないよ」
「なら、何で恋人でもねェおれに……」
「何でだと思う?」
我ながら狡い女だ、自身の口からは言わずにサンジに答えを委ねようとしている。ここでサンジが間違いを口にすれば間違いを正解にして逃げようとしている臆病者。
「何で、って……」
やっぱり何でもない、そう言って逃げ出せば良かった。そうしたらサンジを困らせる事も無かったのに。
「おれが君を好きだから優しい君はおれにチャンスをくれようとした、とか?」
随分と都合の良い幻聴が耳に届く。
「……好きって誰が」
「おれが」
だから、ちゃんとそういう関係になってからじゃねェと駄目、とサンジは私の頭を撫でる。
「半端な事は君にしたくねェから」
「……両想いだったらいいの?」
「両想いだったら、ね」
私はサンジの片手を引っ張り、自身の胸に押し付ける。
「はっっっ!?ちょ!?ナマエちゃん!!」
「両想いだから」
触って、そう私が口を開いた瞬間にサンジは発火したような赤ら顔を晒しながら盛大に鼻血を噴き出すのだった。