短編
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ただの巡り合わせだなんて言わせない、これは間違いなく運命だ。君とおれが同じ星で恋に落ち、同じ想いを共有した。隣を歩く彼女に視線を向ければ、見つめ返すように視線が重なる。
「あ、手を繋ぎたいって顔してる」
彼女は歯を見せて笑うとおれに手を差し出して、ほら、繋ご、と幼子を相手にしているかのように手を引き、数歩先を歩く。手の熱が彼女にバレてしまうだろうか、手汗はギリギリかいていない。動揺を隠して片方の歓喜で震える手をポケットに入れる、男はいつだってカッコつけな生き物なのだ。
島の一角はまだ冬気分でいるのかイルミネーションがピカピカと光っている、灯りが照らす道をお互いの歩幅に配慮して歩く。今は随分と慣れたものだが以前の二人はそれはそれは滑稽なものだった、彼女に合わせるおれとおれに合わせようと大股でズンズン前に進んで行く彼女。二人してお互いの気遣いに笑って、ゆっくり知っていこうね、と指を絡めた事を思い出す。変わるものと変わらないもの、どちらが正解かなんて分からないがおれはこの変わらない気持ちを抱いて、変わっていった自身の歩幅を愛おしく思う。
「君に馴染んでいく」
「ん?」
「君に変えられるのも悪くないって話」
「また突然どうしたの」
変なサンジ、そう言ってこちらを振り返る彼女の顔つきだって変わった。元々の凛とした美しさは変わらず、表情だけが変わった。その顔は恋をしている顔だ、おれと同じ顔。
「……恋しくて溶けちまいそう」
「あら、サンジはいつも溶けてるじゃない」
顔面がゆるゆるよ、お兄さん、そう言っておれの頬に触れる彼女の手のひらに頬を擦り寄せる。カッコつけな男は彼女次第で甘えたダーリンに様変わりする、彼女に構ってもらえる日々は間違いなく幸せだ。だが、それを口にすれば彼女はきっとこう言うのだろう。
「安い幸せね」
「え」
「声に出てた」
「あはは、君の前だと口までゆるゆるになっちまう」
「浮気の心配もいらないわね」
余所見なんてしてる暇ねェって、そう口にしたおれの視界の中には彼女しかいない。きっと、おれの幸せを具現化したら君の形をしているんだろうな、と思える程におれの心を埋めている存在。
「幸せが見えるとしたら、きっと君がいる景色だよ」
立ち止まった彼女は後ろを振り返り、おれに視線を向ける。
「そうだね」
私の景色もそうだから、きっとそうだよ、と彼女は笑う。彼女の瞳に映るおれは情けない顔を引っ提げて、力いっぱい頷いた。