短編
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ソファに片手だけを置いて行き倒れたような体勢で寝ているサンジ、リビングの電気は付いておらず大変心臓に悪い。
「え、生きてる?」
サンジの生死を確かめる為にソファに近付き、心臓に耳を当てる。規則正しくトクン、トクンと鳴る心音にホッと胸を撫で下ろして隣に座り込む。そんな体勢じゃ体を痛めるわよ、と小言を言った所で深い眠りに落ちているサンジにはきっと届かない。最近のお疲れサンジはこうやってリビングや風呂で寝落ちる事が増えた、風呂での寝落ちだけは本当にやめてくれとお願いしてからはこうやってリビングまでは頑張ってくれるようになったが、サンジは決して寝室に来ようとはしない。
「君を起こしたくないから」
確かに生活リズムの違う二人だ。だが、同棲というのはどちらかが我慢したら終わりだと思う、そのうちきっと崩れてしまう。互いの仕事や私生活のリズム、妥協点を見つけてやって行こう、と言ったってこの優し過ぎる自己犠牲男は自身ばかりが負担を負う。
「……ばか」
サンジの幼い寝顔を覗き込んで、少しだけカサついた頬を指でなぞる。このまま頬を摘んで寝室に連行してしまおうかと思う気持ちと寝かせてやりたい気持ちが同時にポンと頭に浮かんで後者が勝った、どうやら私はサンジを甘やかしたいらしい。
起きない程度に体を動かして、サンジの頭と床の間に膝を滑り込ませる。あんな体勢で寝るよりか私の貧相な脚の方がまだ寝心地がいいだろう。ソファに置かれていたブランケットを手に取ってサンジの体に掛ける、少しだけ脚の先が出てしまうが許せる範囲だろう。
「ん……」
身動ぐサンジに起こしてしまったかと苦笑いをこぼせば、重い瞼がゆっくりと開き、中から碧眼が顔を出す。未だに焦点は合っておらず、眠そうに瞬きを繰り返すだけだ。
「……ナマエちゃんだァ」
サンジは、んふふ、とだらしなく頬を緩ませると私の腹に腕を回してすりすりと頭を擦り寄せてくる。そこに下心は無く、大型犬が撫でて、撫でてとじゃれついてくるようなものだ。
「何でこんな所で行き倒れてたの」
「ふふ、でも今は君の膝枕」
普段よりもふにゃふにゃと力の抜けるような喋り方をするサンジに私の肩の力も抜けてしまいそうだ。膝枕ひとつで何がそんなに嬉しいのか、下から随分と熱い視線が送られている。
「見過ぎ」
「下から君を見るのって新鮮だからさ」
どの角度から見たって君は美しいけどね、そう言ってサンジは目尻をだらしなく緩める。
「なら、隣がいいわ」
「ん?隣?」
「どれだけ帰りが遅くなっても寝室で寝て欲しいの、あなたがいないベッドは寒いわ」
そう言ってサンジの金色に触れる、するりと指を通り抜けていく上質な糸のような髪にキスをしてサンジに視線を落とす。
「起こしちまうかもよ」
「行き倒れを拾う為に今日だって起きてる」
「心配した?」
「なぁに、わざと?」
「今日は君に甘えたかったのかも、構ってサンジくんの日」
こんなまどろっこしい気の引き方しか出来ないサンジが愛しいと思ってしまう私も大概なのだろう。生死の確認なんて馬鹿な真似をしていた数分前の私へ、目の前の行き倒れは狸寝入りだから心配しないで、と遅い伝言を送りたくなる。そして、早く甘え下手を甘やかせ、と。
「……怒った?」
黙り込む私に不安になったのかサンジは特徴的な眉をハの字に下げ、こちらを見つめる。それを否定するように私はその薄く開いた唇にキスを落とした、言葉と行動で愛を伝えるには一夜ではきっと足りないだろう。