短編
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サンジは彼女に対してとてもマメだ、ここでは恋人に対してと言った方が正しい気もするがとにかくマメで丁寧だ。言葉を出し惜しむような事もしない。たまに行き過ぎた愛を頂戴して、こちらがキャパオーバーを起こしてしまう時がある。
「恥ずかしくないの」
「恥じるような愛し方はしてないよ」
どこからそんな声が出ているんだ、と言いたくなるくらいに甘い声でサンジはそう答えた。
「っ、くく、早くおれの愛に慣れて?」
まだ君に言えていない言葉が山程ある、なんて自らハードルを上げたサンジは彼女のストップが掛かるまで、その口を閉じようとはしなかった。だが、逆にサンジには一つ欠点があった。その欠点は浮気癖があるわけでも束縛癖があるわけでもない、ただ彼女からの愛に滅法弱かったのだ。
「……どの口が言っているの」
そう呆れ顔を作る彼女はサンジに聞いてもらえない好意を持て余す、口の中で飴玉のように転がした言葉は未だに綺麗なまま溶ける事はない。
二人が座ってもまだ余裕があるソファの上で戸惑った表情で大人しく座っているサンジ、先程から隣に座る彼女からの視線攻撃に身を小さくしている。ビシビシと己の体を刺す視線、視線の強さとは別にその視線に含まれている意味は決して悪いものでは無さそうだが只々、落ち着かない。そして、彼女の傍に不自然に置かれたパンパンのトートバッグの存在も気にならないと言えば嘘になる。だって今日は二月十四日、バレンタインデーだ。恋人同士として初めて一緒に過ごすバレンタイン、去年までは仲間として皆でチョコフォンデュをしていた筈なのに今では二人っきり、そして一方は圧を感じる程の謎の視線に耐えている。
「……えーと、ナマエちゃん」
何か言いたい事がおありかな、と彼女の顔を恐る恐る覗き込むサンジ。
「言いたい事なら山程」
「へ」
戸惑うサンジには目もくれず、彼女は足元に置かれたトートバッグを膝に乗せて中から次々とチョコレートを取り出す。
「このピンクの箱はサンジが逃げて聞いてくれなかった好きの分、こっちの青い包みのはオールブルーっぽいかなって買っちゃったやつ。それから、こっちの黒い箱はサンジが恥ずかしがって聞いてくれなかった格好いいの分」
次々とサンジの膝に置かれるチョコレートの箱はどうやらサンジが素直に受け取れなかった愛の重さらしい、自身の膝の上でバランスよく城を作っていく箱を眺めながらサンジは彼女の口から飛び出て来る言葉達を飲み込もうとするが足の爪先から頭のテッペンまでが熱を持ったように熱い。もう黙ってくれないか、キャパオーバーだ、と訴えかけて来るような熱にサンジはもう我慢ならんと膝に置かれたチョコレートの箱を正面のテーブルに一つ残らず置くと彼女から逃げるように拳一つ分、横に移動する。
「今日は逃げちゃ駄目」
サンジが横に移動すれば彼女も一緒に横にずれる、そしてサンジの右腕にギュッと掴まり、サンジの体に体重を掛ける彼女。
「近い」
「もっと近寄る?」
「無理」
決して合わない視線、ハッキリとした拒絶。彼女はむぅと口を尖らすとサンジの尖った顎をクイッと掴み、自身の方に向ける。
「っ、ふふ、待って、真っ赤じゃない」
林檎みたい、とサンジの頬を両手で包み込む彼女。
「……愛されるのは照れ臭ェから、もっと段階を踏んで」
そんな面倒臭い要求を口にするサンジに彼女は再度、どの口が言っているの、とおかしそうに肩を揺らすのだった。