短編
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息をするように愛を囁くサンジ、恋人同士でよくある言葉が足らないといった問題は私達の間には全く無い、無縁と言って良い程に順調だ。だが、人間というものは厄介なもので言われ過ぎると突っぱねたくなる生き物なのだ。もうお腹いっぱいだ、と。
「好きは禁止です」
一方的な宣言にサンジは目を丸くして、禁止ってどういう事だい、と真っ当な疑問をぶつけてくる。
「四六時中、サンジからの好きを受け取ってるからお腹いっぱいになっちゃった」
我ながら贅沢な悩みだ、気持ちを寄せる者からその倍の気持ちを受け取れるだなんて前世の私はきっと相当の徳を積んだのだろう。正面に立つサンジは絶望に打ちひしがれたような顔をして、大袈裟な程にダメージを受けている。
「禁止っていつまで」
「んー、いつがいいかな」
顎に指を置いて、焦らすようにそう口にすればサンジは今すぐに解禁してくれてもいいよと振り出しに戻ろうとする。一日どころか数分も我慢出来そうに無いサンジについ笑みがこぼれてしまう。
「……おれ、真剣なんだけどォ?」
私だって巫山戯てるわけじゃない、ただくすぐったいのだ。滝のような愛の言葉も堪え性の無い恋人の姿も初めからずっとくすぐったい、お腹いっぱいだと自身に言い聞かせてサンジの愛から逃亡してしまうぐらいには私だって本気だ。
「あ」
「なぁに?」
「愛してるも駄目かい?」
そう言って、こちらを覗いてくる瞳が駄目だった。普段のように明け透けに目をハートにするでもなく、只々静かにこちらを見ているだけの瞳は私に目一杯の好意を叫んでいた。誰が見ても恋をしている瞳だ、あなたが好きだと訴え掛ける瞳。
「……もう、こっち見ないで」
「エッ!?なんで!?ナマエちゃん」
「なんでも」
言葉なんて無くても伝え方は色々ある、それが抜群に上手いサンジはこうやって無意識に私を愛す。それのお陰で私は不安なんて知らずにこうやってサンジの海のような広い愛に身を浸していられる。だが、時々、溺れそうになるのだ。愛され過ぎて死んじゃう、なんてとんだ惚気のような台詞だがこれが私の日常だ。
「君を見て好きを伝えてェよ」
好きの最上級は世間一般で言えば先程サンジが口にしていた愛してるが正しいのだろう。
「……好きの最上級は愛してるじゃないの」
「おれが君に初めて抱いた気持ちを大事にしたいから」
一番に好きになったよ、君を、そう言ってサンジは禁止事項を破る。それに突っ掛かる事も忘れて、私はこの胸のくすぐったさにやっと気付いた。
「(……私も同じだからだ)」