短編
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元々、朝は強い方だった。幼い頃から厨房に入っていたせいもあるが朝のしんとした空気が好きだった、冷えた空気が顔を撫でて、朝を知らせてくる。朝だよ、新しい日が来たよ、と。それは海賊になってからも変わらなかった、異常な胃袋を持つ船長を含め船員の胃袋を握るのはサンジだったからだ。誰よりも早くに起き、静かなキッチンで前日に仕込んだ食材に魔法を掛ける。匂いに釣られて起きてくる一人一人の味覚に合わせた朝食プレートに大皿、そして起きて来ない毬藻に蹴りを入れて喧嘩というじゃれ合いをしながらキッチンに連行するのがサンジのモーニングルーティンだ。だが、そのモーニングルーティンが崩れる日がたまにある。数ヶ月に一度、一ヶ月に数回、それは船上にいるかどうかに限られる。そして条件は綺麗な宿の一室で彼女を腕に抱いて眠っているか、だ。
ベッドの上で規則的な寝息を立てるサンジの身体に寄り添う、壁時計に目をやれば中々の朝寝坊だ。これが船の上だったら朝食と昼食のどちらかを諦めなくてはならないような時間だ、なのに呑気にコックは目を閉じて綺麗な顔を晒すばかりでその顔に焦りは無い。ふふ、と漏れる笑いを隠すように彼女は自身の口元を手で覆って正面にある寝顔を見つめる。不揃いの生えたての髭を空いた手でするりと撫で、ジョリジョリと自身の肌では味わえない手触りを楽しむ。こんなちょっかいを掛けてもサンジは起きる事なく穏やかな寝息を立て、彼女を腕にしまっている。
「おはよう、お寝坊さん」
未だ寝惚けた様子のサンジは、んー、と返事だけを寄越す。眉間に皺を寄せたまま、数回瞬きを繰り返すとサンジはハッとした顔をして隣でニコニコと笑う彼女に視線を向ける。
「……また、寝坊しちまった?」
「ふふ、はい」
サンジは申し訳なさそうに彼女の身体に巻き付けた長い腕を外すと目の前でぱちんと手を合わす。彼女はその手に触れると、ゆるりと首を横に振ってサンジの謝罪を受け取ろうとはしない。
「よく眠れたみたいで良かった」
「……安心しちまって、駄目だね」
君を抱っこして眠るとあったかくてさ、とサンジは自身のセット前の柔らかな髪をくしゃりと乱す。
「ずっとここにいてェなって思っちまう」
「フランキーに二人部屋でも頼む?」
「はは、おれが起きれなくなっちまう」
ナミさんに雷を落とされたくねェからなァ、とサンジは眉をハの字にしたまま笑みをこぼした。
「……私もちょっと内緒にしたいかも」
「内緒?」
「お泊り限定サンジくん」
自身の横で普段よりも幼い寝顔を晒してくれる事、たまに自身の名を口にしては回した腕にギュッと力が入る事、常日頃働きっぱなしのサンジが自身の横でだと朝寝坊が出来る事。それは彼女だけが知っているサンジだ、彼女だけの特権、誰にも教えたくない特別なのだ。