短編
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お母さんみたい、何度目になるか分からないそれを否定する気にもなれずにおれは曖昧な笑みを浮かべた。きっと、この後に続く言葉は、過保護で煩い、付き合ってる気がしない、そんな否定の言葉が飛んで来て、おれはフラれるのだ。ナマエちゃんとは永遠なんてものを夢見て、指輪だって私室に隠してある。おれの給料三ヶ月分を注ぎ込んだ指輪と今だってこの身体から溢れている愛は無駄になってしまうのだろうか、過去についた傷口が急に熱を持ってぐちゅぐちゅに膿んだように痛む。
「安心する」
「…………は」
目をギュッと閉じて耳を塞いでしまおうとするおれに届いたのはいつも通りの彼女の声だった、鬱陶しそうには聞こえない。別れ話を切り出すような声色でもない。ただ、真っ直ぐに愛を届けてくれる彼女の声。
「あ、お母さんって嫌だった?」
「いや、そういうわけじゃねェよ」
勢い良く首を横に振って否定すれば、彼女はくすくすと安心したように笑った。
「……たださ、鬱陶しくねェかなって」
「鬱陶しい?」
「見ての通り過保護だし、たまに口煩く言っちまうし……おれって彼氏っぽくねェって昔からよく言われてて、毎回上手くいかねェんだよね、はは、情けねェっていうか女々しくて嫌になっちまう……」
愚痴みてェでごめんね、と彼女の肩に頭を預ける。自身のせいで湿ってしまった空気を変えようと新しい話題を考えた所で何も思い浮かばない、女々しい上にポンコツかよ、と新たな自身の欠点に舌打ちを鳴らしたくなる。
「実家みたいな安心感なんだよね、過保護にされると大事にされてるなーって思うし口煩く言われてもありがたいなーって感じ。私達、もう一人で生きていける大人じゃん?だから、こんなに大事にされる事ってもう無い気がするんだよね」
「おれ、君を大事に出来てる?」
レディを大事にするのは当たり前だ、恋人なら尚更。だが、それすら己の独り善がりのような気がして自信が無い。
「サンジ以上に大事にしてくれる人なんていないよ」
「これから現れるかも」
「そしたら、指輪が無駄になっちゃうけどいいの?」
彼女の言葉に勢い良く顔を上げれば、したり顔の彼女が自身の薬指を指差す。
「あれってここ用で合ってる?」
「……な、なんで」
こんな動揺した声では肯定しているのと同じだ、あれやこれやとサプライズの計画を立てては納得がいかず、結局振り出しに戻っては渡せずにいた指輪の存在はどうやら彼女にバレていたらしい。
「たまたま見つけちゃった」
サンジの隠し場所はいつも同じだから、と彼女は悪戯に舌をぺろりと覗かせて笑った。責める気も無ければ、怒りがあるわけでもない。ただ、自身を理解されている事が何となくむず痒く返事を返すのがワンテンポ遅れてしまった。
「怒った?」
「いーや、それは全然。たださ、」
「うん?」
「この幸せを手放したくねェな、って」
おれの愛がちゃんと伝わって、彼女からの愛を真っ直ぐ受け取れる幸せ。きっと、これは彼女が言う安心に近い。
「なら、早くこの指に頂戴よ」
「夜景が綺麗なレストランとかじゃなくていいのかい?」
「サンジの美味しい手料理が出てくる我が家がいい」
「はは、君にプロポーズされた気分だ」
そう言って笑うおれに彼女は、毎日あなたの料理が食べたい、と特大の爆弾を落とすのだった。