短編
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夜の残り香が残ったままのベッドを抜け出し、彼女は身支度を整える。自身の抜け殻の横でスヤスヤと寝息を立てているサンジの頬を指でなぞり、その寝顔にいってきますと声を掛ければ、また小さな寝息が返ってくる。整えていない髭は普段よりも無防備でやけにセクシーに見える、それを本人に伝えたらワザと甘く整えて、見て、見てと言わんばかりにアピールを繰り返すのだろう。彼女はそんなサンジを想像しながら音を立てないように気を付けながら寝室を後にする。
ここの所、サンジは忙しく働いていた。レストランに勤務しているサンジにとったら暇な日なんて無い方がいいのかもしれないが一緒に暮らしている彼女にとったら少々心配になってしまうぐらいにはハードな日々を送っていた。大丈夫か、と問い掛けてもサンジは彼女を安心させるように笑って、こう言うのだ。
「楽しいよ、仕事も君との毎日もね」
どれだけ忙しくてもサンジは弱音なんて吐かない、それは無理をしているわけでもなく忙しさすら楽しんでいるのだ。
「それならいいけど無理はしないでね」
「君が心配してくれるなら休み無しでもいいかもしんねェな」
「ばか」
緩んだ頬を抓んで睨み付ければ、サンジは反省していない声で謝罪を口にする。許して、レディ、そう言って甘い声で許しを乞うサンジに彼女は溜息を吐くと肉付きの悪い頬から手を離した。
「明日はちゃんと休むのよ」
「プリンセスの仰せのままに」
「明日は貴方が眠り姫よ」
昼過ぎまで寝てたって誰も文句なんて言わないわ、と言ったのが運の尽きとでも言えばいいのか、昨日の夜は凄かった。
「……私は休みじゃないのよ」
「えへ♡」
寝る前の記憶を掘り起こしてもサンジのあざとい顔が浮かぶだけだ、好きにされても腹立たしい顔を向けられても許してしまうのは相手がサンジだからだ。
鞄を持ち、玄関に向かう彼女。履き慣れたショートブーツに足を通し、ドアノブに手を掛けた所で後ろから少し掠れた声が降ってくる。
「ナマエちゃん、何か忘れてねェ?」
振り向けば、寝起きですと主張するような少しだけ浮腫んだ顔とボサボサ髪のサンジが壁に寄り掛かるようにして彼女を見ていた。
「サンジはシャツを忘れてるわ」
「すけべ」
「ふふ、冗談よ。おはよ」
そう言って、サンジの散らかった金髪に手を伸ばす彼女。手櫛で少し整えるだけでストンと落ち着くその髪が羨ましい。ショートブーツ分の数センチがサンジとの距離を普段よりも少しだけ縮めてくれている。
「ちゅーの忘れ物をしてませんか?レディ」
彼女の腰を引き寄せて、何かを言い掛けようとする唇を言葉ごと攫っていく。
「んっ……っ」
「……そんな顔されちゃ、いってらっしゃいって言ってあげられなくなっちまう」
そう言って自身の唇に映った淡いピンクをペロリと舐めるサンジ。
「ふふ、甘いわ」
「もー、煽んねェの」
「したのはそっちが先だわ」
彼女はくすくすと笑いながら、もう一度背伸びをし、サンジの唇に自身の唇を押し付け、くるりと素早くドアに体を向けて、いってきます、と手を振る。そんな自由な彼女に苦笑いをこぼしながら、サンジはその背中に声を掛ける。
「今日も浮気しちゃだめだぜ?ナマエちゃん」
「今日もサンジくんだけですよ」
その返事にサンジは満更でもない顔で、いってらっしゃいと手を振った。