短編
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男という生き物は女よりも中身の成長が遅く、いつまで経っても幼稚だ。意地悪をして気を引きたい?ツンツンした態度は愛情の裏返し?正直言って私はうんざりしていた、サンジのそういう態度全てに。女はギャップに弱い?たまの優しさにキュンとする?たまに優しく出来るなら普段から優しくしろと思うのは間違いだろうか、私を除く全世界のレディへ向ける優しさの十分の一を自身に向けてくれたっていいじゃないか。そう話し合えば、何かが変わったのかもしれない。だが、幼馴染で誰よりもサンジの事を理解している自身には良い結果が探し出せずにいた。
「もういい」
「もういいって何だよ」
「もう、いいの」
辛い、別れたい、と続いた言葉は切実な響きでサンジの鼓膜に届いた筈だ。冗談でもエイプリルフールの嘘でもない、サンジに終わりを告げる言葉。
「嫌だ」
「今更ね」
もっと私を大事にしてたら何かが変わったかもね、と煙草と香水の香りを身に纏ったサンジに終わりを叩き付けた。背後から聞こえる声がやけに悲しく私を呼ぶ、いつもみたいに、おい、お前、なんて声は聞こえず、数年ぶりに呼ばれた名前。だが、それに返事を返す事は無く、私達はそのまま終わった。
「……終わったわよね?」
「知らねェ」
無言の圧を背中に受けながら、何故か私はサンジの腕の中にいる。いつにも増して優しくないサンジは先程から知らない以外の言葉を発さない。馬鹿なりに自分でワケを考えろ、とでも言いたいのか、それ以外は終始無言だ。
「別れたのにおかしいわ」
「知らねェ」
何度目かの知らないに大きな溜息をつく。その瞬間、サンジの腕の力が増してギチギチと音を立てる。
「痛い」
「……ごめんね」
その瞬間、首筋に一滴、水滴が落ちた。生温いそれの正体を確かめようと後ろを振り返れば、見事な泣き顔があった。
「……泣き虫サンジは論外って君が言ったんだ」
「は」
「だから、君が好きって言ってた男の真似をして、そしたら運良く付き合えて、っ、浮かれてたんだ。君の理想になれたんだ、ってね」
だけど、それも失敗しちまった、とサンジは泣き笑いのような表情で私を見る。
「いつの話よ……」
「君とおれがガキだった頃だよ、君の後ろでピーピー泣くおれに君は言ったんだ。男なら泣くな、って。クソガキだったおれは君を好きだったから君の理想の男になる方法ばっかり探してた。それは今だって変わらねェ」
大昔の話だ、私がサンジよりも数センチ背が高かった頃の話。その頃のサンジは少しだけ不安定だった、厨房にいる時は目をキラキラさせて楽しそうに料理をしていたが二人っきりになると少しだけ泣き虫になるのだ。そんなサンジの泣き顔を拭いながら、確かに私はそう言った。
「たまにしか優しくしてくれないのは……?」
「……君がジジイみてェな男に憧れるって」
「へ?ゼフパパ?」
コクリと頷いたサンジについ笑いがこぼれてしまった、確かにゼフパパの優しさは分かりにくい。優しくないというよりもあの人は不器用なのだ、それに私にはいつだって甘かった。
「ナマエちゃん?」
「ふふ、その不器用はゼフパパ譲りね」
ナマエちゃんなんて呼ばれるのはいつぶりだろう、サンジが泣き虫を卒業するのと同時に呼ばれなくなった名前はこんなに甘かっただろうか。
「まだ、私達って間に合うと思う?」
「……っ、勿論!」
「誰の真似もしないで、そのままのサンジと付き合いたい」
この一言に涙腺を決壊させたサンジは私をぎゅっと抱き締めながら、今までの溜まりに溜まった愛を私に向かって謳う。すれ違いを繰り返した二人は初めて互いの愛に触れたのだった。