短編
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ナマエちゃんとの出会いはありきたりでシンプルなものだった、映画だったらあと少しの捻りが欲しいと文句が飛んできそうな程にありきたりでロマンチック。ナンパなクソ野郎に絡まれている彼女をそれはもう鮮やかな蹴りで助けた事がキッカケだ、振り向いた彼女はおれを見て礼を言うでもなく、ナンパなら間に合ってるわよ、と勝ち気な瞳でおれを睨んだ。
「はは、助けは必要無かったかい?」
「頼んでないわ」
「クールなお嬢さんだ」
温室育ちのチワワのような見た目で男に立ち向かう姿は立派だった、年若ェお嬢さんならこれぐらいの警戒心は必要だろう。だが、彼女にナンパを餌にナンパしたと思われるのは何故か嫌だった。自身がレディにだらしない事も長続きしない事もそこそこ生きてきた年数で嫌になる程、理解しているがレディに対して不誠実な行いだけはして来なかった。
「もう、私、行っていいかしら?」
「この道よりあっちの大通り」
「は?」
「人が多い所を歩きなさいっていうおじさんからのアドバイス」
おじさんからのアドバイスは若いお嬢さんからしたらお節介にもなりうる。今だって不貞腐れたようにレディはこちらを見ている、ウザい、勝手にするわ、しつこいおじさん、何パターンかのキツイ一撃を想像して彼女からの攻撃を待つ。
「……ありがと、親切なオニーサン」
そのサングラスはちょっと怪しいけど悪くないわ、なんて一言を残して彼女は大通りの方に向かって行った。可愛らしい攻撃でおれの心に一撃をお見舞いした彼女はおじさんの心のデリケートさを知らない、これが恋なのか、と考える時間すら要らない程にこの痛みを知っているのだ。
「……ったく、まいったねェ」
自身の髪をくしゃりと乱して、彼女の背中が人波に紛れるまで見つめていた。
もう会う事は無いだろうと胸の痛みから目を逸らす日々を悶々と過ごしていたおれを神は見捨てなかった。両手にビニール袋を持つおれを指差して、あ、と声をもらした彼女。ビニール袋のせいで手を振る事も出来ずにおれは怪しいサングラスの下で苦笑を浮かべる事しか出来なかった。
「親切なオニーサンだ」
「……オニーサンはちょっと無理がねェかな」
「三十ぐらいでしょ?」
「プラス一周とちょっと」
世辞でも嬉しいよ、と笑うおれに彼女は疑いの目を向けてくる。
「この肌で?」
「お嬢さんと並ぶとシワシワだろ」
「オニーサン全国の女を敵に回したわね」
「っ、くく、おれは全国のレディの味方なのに敵対しなきゃいけねェのは辛ェな」
やっぱり軟派な人じゃない、そう言って彼女は笑った。初対面の時の刺々しさは消えて穏やかな表情を浮かべる彼女。
「良かった」
「ん?」
「君が笑ってて」
どんな時でもレディには笑ってて欲しいから、そんな独り善がりな願いは鬱陶しい?お節介?だが、これを訂正する気は無かった。間違いでも勘違いでもない、おれの本心だから。
「……オニーサンならナンパしてくれてもいいよ」
「どういう風の吹き回しかな」
「直感」
オニーサンに恋しそうって直感、そう言って彼女は自身の名前を初めて口にした。その名前をなぞるように口にすれば、甘い響きが口いっぱいに広がった。