短編
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人によって浮気のラインは違う、自身以外と喋っただけで浮気と感じる者もいるらしい。それを聞いた時に生き辛くないのかなと真っ先に思ってしまった自身はきっと間違ってはいないだろう。だが、恋人であるサンジは違うかもしれない。私は自身の鈍さに自覚がある、だから無意識のうちにサンジを不快にしたり不安にさせてしまったりしているかもしれない、ただ、それだけが不安だ。それが態度に表れていたのか夕食後サンジに呼び出された、テーブルの向かいに座っているサンジは頬杖をつき、片手を私の頬に伸ばした。
「どうかしたかい、レディ」
「何でそんなこと聞くの」
「君の曇った表情に気付けねェ野郎に見えるかい?」
「……見えない、です」
悟られないように笑ったってサンジはその笑顔の裏側で取り繕えなかった弱虫の私ごと抱き締めてくれるのだ、サンジ本人の察しの良さもあると思うがきっとコレは私に対する愛だ。
「聞かせて、君の憂いが晴れるまで」
「……サンジはどこからが浮気だと思う?」
「あー、さっきナミさん達が話してたやつか」
私はそれに頷き、正面に座るサンジの顔を見つめる。
「えっと、サンジは私の事で不安になったりしない?みんなと距離が近いとか、ちょっとした事で勘違いさせてたら嫌だな、って」
「っ、くく、距離近ェ自覚はあんだね」
シリアスに傾きそうな空気を壊すようにサンジはそう言って笑った。どういう意味だ、と膨れた私の顔を両手で包んだサンジはプシュっと空気を抜くように私の頬を潰す。
「てかさ、行為どうのこうのじゃなくてさ、下心を持ったら浮気なんじゃねェの?」
「なら、サンジは浮気三昧になっちゃうよ」
「……おれ、結構一途なんだけどなァ?」
そんな事、誰よりも知っている。メロメロと女の尻を追い掛ける姿だって長らく見ていない。ナミやロビンに目をハートにしてる姿はよく見るが何故かその横に並ぶ一番のちんちくりんに鼻血を出して死にかけるような男だ。浮気なんて出来る筈が無いと言い切れる程にサンジの愛は分かりやすく、真っ直ぐだ。
「冗談」
「なら、冗談ついでに例え話をしようか」
「例え話?」
「大変面白くねェ話だが、君がおれ以外とキスをするとしよう」
しない、と食い気味に答えた私にサンジは気分を良くしたまま、その形の良い自身の唇を指先で撫でる。
「例え話だよ、それだってさ、おれの不甲斐無さから招いた事かもしんねェだろ?なら、一方的に浮気しただろって君を責め立てて被害者面すんのは違くねェかな、って」
「……不甲斐なさ?」
「おれじゃ、君を満足させられなかったとか色々かな」
その話を理解する事は簡単だった、だが、納得する事は出来なかった。例え話と分かっていても、やはり肯定的に受け止めるには無理な話だった。
「私、サンジじゃなきゃ無理。満足出来ない」
手を繋ぐのも、ちゅーもそれ以上も全部サンジとだからしたいの、と私はサンジの手をぎゅっと握り、ガタンと音を立てて立ち上がった。倒れた椅子には目もくれずにサンジだけを視界に入れる、そんな私にサンジは数回、瞬きを繰り返して余裕の笑みを浮かべた。
「同感だよ」
「趣味の悪い例え話をしたくせに」
「っ、くく、ごめんね。まァ、何だ」
おれはナマエちゃんがいる限り、君で忙しいんだ、だから浮気の心配は無用だよ、レディ、そう言ってサンジは私の手を引き、手の甲にキスを落とした。