短編
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彼が眼鏡をかけだした、お洒落な伊達眼鏡にも見えるそれはしっかりと度が入っており衰えた視力を補正してくれているようだ。寄る年波には勝てねェな、なんて年寄り臭い事を言うくせにそのビジュアルは衰えすら味方につけてサンジの色気という武器になっている。サンジの長い指がブリッジを押し上げて、手元のスマートフォンから顔を上げる。そして、レンズ越しの碧眼が私を見つけて柔らかな笑みを浮かべる。
「おまたせ」
「んーん、待ってねェよ」
サンジはそう言ってスマートフォンをコートのポケットにしまうと私の荷物を肩に掛けて、空いた手で私の手を握る。
「自分で持てるのに」
「君にはおれの手だけ持ってて欲しいから」
「……キザなんだから」
「大人は皆、カッコつけなんだよ」
余裕の笑みを浮かべたまま、サンジはそう口にする。こういう時に年の差を自覚してモヤモヤしてしまう私はきっと贅沢な女なのだ、同年代の男達なんかと比べ物にもならない程に最良物件と付き合っているのにこれ以上、何を望むのだ、と。
「眼鏡には慣れた?」
「お陰様で視界が良好だよ、君のリップの色が変わった事にも気付ける。美しい君によく似合ってる色だ」
「キスしたくなる?」
私の馬鹿な質問に動揺することも無くサンジは握ったままの私の手にキスを落とした。
「いつもだよ」
「ちょっと……!ここ外!」
「文句は君のリップに言ってくれ、幼気なおれにはセクシー過ぎるよ」
都合良くおじさんになったり若返ったりする困った恋人に苦笑いをこぼす、セクシー、色気の化身のような男のくせに時々こうやってワザと私を困らせようとあの手この手で私を振り回す。これだって私が年齢差を気にしないでいいようにしてくれている事を理解している。
「幼気なレディの私は貴方の眼鏡でクラクラよ」
「なら、もう外さねェ」
ずっとおれにメロメロのクラクラでいてくれ、とサンジは言う。メロメロは余計よ、と繋いだ手をクイッと引っ張る私に視線を合わせるようにサンジは少しだけ腰を折るとレンズ越しに私を見つめる。
「君の目の奥のハートまでちゃんと見えてるよ、お嬢さん」
「……眼鏡って不便ね」
「っ、くく、違いねェなァ」
隠し事が下手になった私と何でもお見通しなサンジ、年の差が気になる私と都合良くおじさんになったり若返ったりと忙しいサンジ、凸凹な二人が手を取り合ったらパズルのピースのように上手くはまったのだった。