短編
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料理人、煙草、ヘビースモーカー、女好き、お人好し、人一倍優しい、青が似合う、スーツが似合う、眉毛が少し個性的、口が悪い、目付きも良くない、紳士、愛の奴隷、人魚のように海を泳ぐ、紙に箇条書きしていったサンジの特徴。最後にオールブルーと書けば、この紙はもう完成だ、恋人か、と口元をニヤつかせる店員に紙を押し付けるように提出すれば、ふむふむ、と頷きながらテーブルの上に小瓶を何個も取り出す。
「沢山、種類があるのね」
物珍しそうにキョロキョロと視線を動かす私に向かって、彼女は香り付けした試香紙を二枚差し出してくる。
「どっちが彼の香りを感じる?」
「しいて言えば、こっちかしら」
そう言って左側の試香紙を指差せば、彼女は未使用の試香紙にまた別の香りをつける。そして、また様々な質問を私に投げ掛けてくる。その度に私はサンジを頭に思い浮かべながら、照れ臭い質問に返事をする。
そして出来上がったのが紙袋に入ったこれだ、少し大きめの二つの瓶に入ったそれぞれ別の香り。これを持ち運びが便利なアトマイザーにそれぞれ移して、手首や首にワンプッシュずつ振り掛ける。そして、軽く擦り合わせれば、私だけのサンジの香りの完成だ。これはイメージ香水というものらしい、たまたま下りた島で女の子達が楽しそうに話していた話題にまんまと惹かれて、恋人であるサンジのイメージ香水を作ってしまったのだ。
サニーに戻り、素早くシャワーを浴びると私は女部屋に駆け込む。ナミやロビンが不在の女部屋は少しだけ寂しいが今日だけはありがたい、私は自身のベッドに置いていた紙袋の中から詰め替えたばかりのアトマイザーの1本を取り出し、自身に吹き掛ける。そして、もう片方のアトマイザーを握り締めるとサンジの元に急いだ。
「お、丁度、君を呼びに行こうと思ってたところだったんだ」
運命はやっぱり、おれ達を引き寄せちまうんだね、と規模の大き過ぎる告白をしてくるサンジに苦笑いを浮かべれば、サンジはその高い鼻をヒクヒクとうさぎのように動かして私に近付く。
「シャンプー?いや、シャンプーは変わってねェな……ボディソープか……?ありゃ、違う?」
首を傾げて私の体にくんくんと鼻を押し付けてくるサンジ、そこには色気なんて大層なものはなくて、ご主人様から知らない匂いがするとキャンキャン吠える犬のような可愛らしさがある。
未だにうんうんと悩むサンジに答えをあげようと、私はサンジのシャツに片方の香水を吹き掛けた。突然の事に目をぱちくりとさせて驚いているサンジを無視して、その逞しい体にぎゅっと抱き着く。
「フレグランスペアリング」
「それは、なぁに?」
「二つ以上の香水を付け、複数の香りを身に纏うこと」
抱き合っている私達からは別々の香水の香りがしている、私からはアクアマリンのような香りがして、サンジからはスパイシーさが魅力の大人な香り。
「……サンジはこの二つの香りが合わさったら何の香りになると思う?」
「君からは海みたいな香りがする、マリン系って言えばいいのかな?……なんか、すっげェ落ち着く香り」
サンジは自身のシャツを鼻に持っていくと、答えに戸惑っているような表情を見せる
「ナマエちゃんらしくねェ香り、なんだが……おれにとっては嗅ぎ慣れた香りがするんだよなァ」
「ヒント欲しい?」
「あァ」
私は特大のヒントをサンジに差し出す。
「私が一番好きな人の香り」
「……おれ?」
サンジは自身の顔を指差しながら、私にそう聞く。何でそんな自信無さげなの、と口を尖らす私にサンジは首を横にブンブンと振って、光栄すぎて言葉が出ねェの、と弁解をする。だが、突然なにかに気付いたかのように自身のシャツをもう一度嗅ぐサンジ。
「サンジ?」
「嗅ぎ慣れた香りがするって言ったろ?……あれさ、たまに君からおれの煙草の香りがするのと似てんだよなァ、愛情を確かめ合った翌日とか、特にね」
おれっていうかさ、おれに愛されてる君の香りがする、とサンジは彼女の首に鼻先を埋めて何度もマーキングのようなキスを重ねる。香りにつられるように愛情を上書きするサンジの背に腕を回して、彼女もその香りを胸いっぱいに吸い込むのだった。