短編
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サンジとは恋人ではない、爛れた関係でもない。だが、友達かと聞かれたら首を傾げてしまうような関係だ。二人の間にはサンジの途方も無い大きな大きな愛という名の矢印がある、自信過剰ではなく自他共に認める程の矢印が存在しているのだ。私に新しい彼氏が出来ようと仲の良い男友達が出来ようとサンジの態度はずっと変わらない、長い手足を使って作るハートマーク、耳鳴りがしてしまいそうな程の愛の叫び、咥えた煙草の煙がハートを描き、私に向かってユラユラと宙に浮遊する。全身で伝えられる愛に目眩がしそうだ、と以前は目を逸らしていたのに今はこれを見ない日は何故か落ち着かない。
「もしかして、確信犯?」
「ん?」
頬杖をついたまま、私の顔を飽きもせず眺めるサンジ。サンジの注文した珈琲は可哀想な程に放置されて、そのままの状態でカップの中で水面が揺らいでいる。サンジの体内時計はきっと狂ってしまっているのだろう、と失礼な事を思いながら私は正面に座るサンジの顔を見つめる。
「サンジのそれよ」
「どれかな?」
首を傾げて自身のスーツに視線を落とすサンジ。スーツにおかしな所なんてない、おかしいのはきっと私の目の方だ。いつものだらしなく伸びた鼻の下、ビックリ人間のようなハートの目、それ等を見ただけで心臓がガタガタっと地震が起こったように動揺を見せるのだ。
「それを狙ってた?」
「ふは、今日の君はなぞなぞみてェだ」
ミステリアスなレディは何を知りてェのかな、と冷めた珈琲に口付けるサンジ。俯いた事によって長い睫毛が目元に影を作り、普段の胡散臭い愛の伝道師のような姿とは別人に見える。
「私が貴方を好きになるって分かってた?」
長い時間を掛けて口説けば、自分の手に落ちてくる自信があったのかしら?それとも狙ってた?と矢継ぎ早に話す私にサンジは情けない声を上げる。
「……へ」
「え?」
数秒の間、視線を合わせて固まったままの私達。先に正気に戻ったのはサンジだった。
「好きなのかい……?」
「あんなにアピールされたら、ねぇ?」
「……っ、しゃ!!」
静かなカフェに響くサンジの声、サンジは慌てて周りを見渡すと肩を竦めてペコペコと頭を下げている。口元に手を当ててくすくすと笑っていれば、サンジの隠れていない片目が様子を窺うようにこちらに向けられる。
「えっと、おれね、ずっと本気だったよ。いつか君がおれに振り向いてくれるとか自信があったわけでもねェ。ただ、君が付き合った野郎や君を狙ってた男友達なんかよりも君にずっとずっと本気で惚れてるってアピール、ただの諦めの悪い男の自己満足さ」
君を困らせたくねェって思いながらもこの身体は君を見つけたら君にクソデケェ愛を届けたくなる、と困ったように笑うサンジ。
「略奪してやろうって邪な気持ちは浮かばなかったの?」
「……知らねェ男の隣で笑う君も素敵だったから。いつか、その隣に立つ順番がおれに回ってきたら良いのにとは思ったけどさ」
そう言ってサンジはテーブルの上に乗った私の手の上に自身の手を置いた。私が引き抜けば、すぐに離せそうな力で私の手を包む。
「やっと順番が回ってきた」
「……サンジ」
「はは、そんな顔しねェで。おれは君に片思いしてる間も幸せだったよ、これは嘘でも誤魔化しでもねェよ」
だけど、今はもっと幸せだ、とサンジは言う。途方も無い大きな大きな愛は想像以上に大きく、私を絆すには十分だった。
「おれは次の野郎に順番を譲る気はねェよ」
まだ全然、君に愛を届けてねェもん、そう言ってサンジは私の手をぎゅっと握った。これから年中無休で届けられるであろう愛の前で私は降参だと言わんばかりにサンジの手を握り返した。