短編
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枕元で頬杖をつき、私の顔をこれでもかと観察するサンジ。目が二つ、鼻と口が一つずつの至って特徴なんて無い顔だ。
「一生、見せてもらえねェんじゃねェかと思ってた」
「今からでもそうしたい所よ」
人よりも塗りたくった厚化粧を剥した顔はこんなに見つめられる価値も無ければ、サンジの瞳からはきっと想像を裏切る別人が映っている事だろう。騙していたわけでは無いが、少しだけ居心地が悪い。サンジの視線から逃げるように胸元まで掛かっていた毛布を上に引き上げて、頭から隠れるように被る。
「かくれんぼかい、レディ」
「……可愛くないって言えばいいじゃない、詐欺だ、って」
甘やかな声を弾くような冷えた声が自身の口からこぼれた、態度まで可愛くない自身に嫌気が差す。サンジはそんなこと一言も言っていない、被害妄想にも程があると自覚しながらも鏡の前で呪ったコンプレックス達は消えてくれない。
「美人だ」
サンジはそう言って毛布に手を掛けて、私同様に中に入ってきた。そして、私の一歩引いた体を片手で抱き寄せて私の頬に空いた手を滑らせる。
「まずはその瞳だ、君の夜空に浮かぶおれは月になれる事を知っているかい?そのまま、君の瞳に住んでいてェって思うんだ」
おれを輝かせるのも君を照らせるのも二人だから出来るんだよ、とサンジは言う。ゆっくりと言い聞かせるように、時には惚気のように私の顔を褒め称えるサンジ。嫌いな瞳の色も眠そうな重い瞼もキスしたって柔らかくないだろう薄い唇もサンジにとってはどうやら違うらしい。
「愛しい恋人の一部だもん、当たり前だろ」
君を造る全てが美しい、とサンジは言う。そんな甘い言葉に騙されたくないのに私はサンジの手に頬を摺り寄せて、コクンと素直に頷いていた。
「また、自信が無くなったらおれに聞いてよ。君の美しい所も可愛らしい所もおれが教えてあげる」
ま、そうならねェように今以上に愛を伝えさせてもらうよ、そう言ってサンジは私の体を自身の腕の中に閉じ込めた。
「……ちょっと見直した」
「っ、くく、ちょっとだけ?」
じゃれつくようにくっついてくるサンジの胸板に顔を埋めて笑って誤魔化す、そうすれば、サンジの指が髪に絡められる。梳くように撫でるように絡む指先が私の頭を引き寄せて、頭上でリップ音が響く。
「こっち向いて、ナマエちゃん」
「えー」
「君のご尊顔にキスしてェ」
ご尊顔、とサンジの言葉をなぞるように口に出せば、自身の欠点塗れの顔がやけに気取った物のように思えて笑いが込み上げる。甘い雰囲気をブチ壊す私に口を尖らす事も声を荒らげる事もしないサンジは、私の顔を穏やかな顔で見つめながら口を開いた。
「そうやって笑ってるレディに弱ェんだ、おれ」
その、くしゃりとしたサンジの笑みに、私も、と笑ってお待ちかねのキスをした。素顔のままで愛させて、と。