短編
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「(あれ、私って何が出来たっけ……?)」
器用なサンジの手に塗られた爪は太陽の光に反射して、ピカピカと光っている。メイクだって夏島らしくパキっとした色使いでまとめられて上々だ、それに髪だって専属美容師さながらの手捌きでサンジが凝ったヘアスタイルを頭上で作っている。別に恋人を顎で使ってやろうだなんて考えていない、全てサンジが自主的に行っている事だ。それに対して不満は無いが今の私はサンジがいなくなったら何が出来るのだろうかと思う事はよくある。
「どうかしたかい、レディ」
可愛い顔が曇ってるよ、とサンジは崩れないように髪にスプレーを掛けながら口を開いた。自身の腕前じゃここまでセット出来る筈がない、後ろなんて鏡で見せられても首を傾げてしまうような作りになっている。
「私って何が出来るんだろうなぁ、って」
「ん?どういう事だい?」
「サンジがしてくれるから全部、忘れちゃいそう」
爪の塗り方も髪の巻き方も全部、そう言って鏡越しにサンジを見上げれば、それはいいね、なんて軽い返事が返ってくる。
「他人事だと思って」
「君に触れる理由が出来た」
ここにも、あとここにも、そう言ってサンジは鏡越しにワザと目線を合わせながら私の指にキスを落とした、そしてワンピースの後ろ襟に指を引っ掛けて項に触れた。
「おれが何でもしてあげてェの、ただのおれの我儘だよ」
「……それは我儘って言わないわ」
「なら、もう一つ我儘」
「ん?」
サンジは鼓膜を愛撫するような甘い声で、崩す所までおれにさせて、と口にした。鼻の下を伸ばしていつものようにだらしない顔をしてくれれば一刀両断出来るのに、今のサンジは断られる選択肢なんてこれっぽっちも考えていない顔で余裕の微笑みを浮かべている。
「……出来なくなっちゃった」
「何をだい?」
「サンジを拒否出来ない」
爪を塗る事でも髪を巻く事でもない、一番はじめに出来なくなったのはサンジから逃げる事だ。
「はは、それは大変だ。好き放題されちまうよ、おれに」
「例えば?」
「野郎が考える好き放題なんてロクなもんじゃねェから聞かねェ方が身の為だよ」
私はサンジに何をされるのだろうか、そんな不安が顔に出ていたのかサンジは私の顔を見て小さく吹き出した。
「っ、くく、可愛いなァ」
「そんな可愛い恋人に何をする気?」
「ちっとばかし、愛を確認し合うだけだよ」
髪を崩して化粧を剝して理性を脱ぎ合うなんてどうだい、とよく回る口でサンジは私にそう誘いを掛ける。
「日が落ちたら考えてもいいわ」
「なら、今は着飾った君を愛させて♡」
サンジに着飾られ、サンジに絆された私はこの一から十まで計算された愛に溺れていく。仕方ないわね、と伸ばした手は利口な程に従順にサンジの手を無意識に握るのだった。