短編
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主役でもないのに気取ったスーツを着て、両手から溢れそうな花束を持っている自身の滑稽さに苦笑いがこぼれる。何が今日は仕事だから行けないだ、数ヶ月前には既に休暇希望を出していたくせに、とサンジは自身の必死さをポーカーフェイスで隠しつつ、彼女がいる会場まで車を飛ばす。すれ違う新成人達の姿がやけに眩しくて、つい瞳をサングラスで覆った。
「……歳は取りたくねェな」
滅多にねェんだし行ったらどうだい、と背中を押したのは自身の筈なのに急に不安が忍び寄って来る。和装マジック、同窓会マジック、そんなものがこの世にはあるらしい。学生時代のマドンナが数年で美しく花を咲かせれば、馬鹿な野郎達はこぞって恋を錯覚するだろう。サンジ自身、若い頃は惚れっぽく女性であれば余程の事が無い限り愛を向ける対象だった。だが、今はどうだ。自身よりも一回り下の恋人に鼻の下を伸ばし、彼女に好意を向ける元同級生達を想像上でオロす大人げなさだ。みっともなく若さが羨ましいと思ってしまうくらいには彼女だけに愛を向けている自信がある。
会場の近くのコインパーキングに車を止めて、胸ポケットにサングラスを差し込む。ミラーで髪を確認し、緩めた襟元をそれなりに整えて、サンジは助手席に置いた花束を持ち、車から降りる。赤い薔薇なんて王道中の王道を選び、本数だって中途半端な二十四本。本数によって意味が変わる事だって彼女に出会う前だったら知らなかった、女性に花束を渡したってそこにちゃんとした意味は無かった。ただ、好きを渡す方法が分からなかったのだ。物を貢ぎ、言葉を幾十にも重ね、自分なりに愛したつもりだったが結局は重いの一言で皆、サンジの元を去って行った。重くても軽くても結局、結末は変わらない。
「仕方ない人」
そう言って一回り上のどうしようもない男の手を掬い上げたのは年若い彼女だった、愛し方が下手だ、物を貢げばいいってものじゃない、と真正面からサンジの不器用な愛を一刀両断した彼女。重ねたのは年齢だけ?と言われた時は切れ味に笑ってしまった。
サンジは彼女から送られてきた振り袖の写真を思い出す、誰の色でしょうか、なんてクイズ形式で送られてきたブルーの振り袖。髪飾りはさりげなくゴールドに光っていた、それを見た瞬間、サンジは堪らなくなった。だって、その色はサンジの色だ。瞳と同じブルー、髪色と同じゴールド。人生の輝かしい日に自身の色を纏っている彼女が愛おしくて叫び出してしまいそうだった。
『おれをどうしてェの』
『夢中にしたい』
それへの答えがこの花束だ、赤い薔薇を二十四本。一日中、あなたを想っている、と。
「……だから、重ェって言わずにさ」
おれごと貰ってくんねェかな、とサンジは遠くに見えるブルーの振り袖に目を細めた。彼女がこちらに気付くまで、あと数分。サンジの中で覚悟はもう決まっていた。