短編
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「同窓会ぐらい行きなよ、少年」
「もう少年は卒業して来たよ、お姉さん」
私達の関係はマンションの隣人それだけだ、この金髪が自身の肩よりも随分と下にある頃から知っている。だから今もあの頃と同じように少年と呼んでしまう、自身の背丈を越えても声が低くなっても可愛い少年のまま記憶されている。なのに、いつからか少年は世間に触れ、色恋を覚え、何を血迷ったのか私に矢印を向けてくるようになった。おれが成人したらお姉さんの彼氏にして、とブレザー姿で言っていた子供は立派なスーツに身を包み成人を迎えたらしい。
「冗談じゃなかったんだ」
「はは、ひっでェの。おれはずっとお姉さんだけなのに」
「……そこそこ遊んでたくせに」
だって、童貞は勘弁なんだろ、と少年はベランダの手摺に寄り掛かってくすくすと肩を揺らしている。
「おれはお姉さんに捧げたかったのになァ」
「別にいらない」
「思うのは自由だろ、妄想はタダだ」
都合が良い妄想ね、と皮肉を言えば、だから妄想なんだよ、とテンポよく皮肉が返ってくる。
「それで妄想での勝敗は?」
「……勝ちが見えなくてヘコんでるとこだよ」
缶の中に煙草の吸い殻を落とし、少年は遠くの空に視線を向ける。その横顔は知らない大人のようだ、少年、少年、と振り回すにはもう彼は随分と大人だ。
「大人になっちゃったなぁ」
「おれに子供でいて欲しかった?」
「どうだろ」
片目を隠すサラサラの金髪に手を伸ばす。ん、と擦り寄ってくる頭をくしゃりと掻き混ぜれば擽ったそうに少年は笑った。
「何で私なの」
「好きになるのに理由は必要ねェんだと」
「嫌いになる時は必要なのにね」
乱れた前髪の隙間から少年の両目が覗く、海や空に喩えるには複雑な色を含み過ぎている碧眼。その碧眼が私を真っ直ぐに見つめる。
「理由は見つかったかい、レディ」
「……無いから困ってるの」
成人を迎える前から理由なんて一度も見つからなかった、犯罪者にはなりたくないと思っていたが少年自身を理由に断ろうと思った事は無かった。それに自身の年齢を盾にしたって今更だ、最初から少年はそれを理解して私のパーソナルスペースにズカズカと上がり込んで来たのだから。
「サンジくんの粘り勝ち」
両手を顔の横に持っていき、降参のポーズを取る。そうすれば、ベランダの区切りを軽々と飛び越えた少年の腕に抱き竦められる。
「ここ何階だと思ってるの」
「……夢じゃねェよな」
冷えたベランダでお互い薄着のまま抱き合っている現実、互いの背中に回された腕がお互いの存在を知らせる。私の背を抜かし、細身ながら私の体をすっぽりと隠してしまう少年の体。
「サンジくん」
「なんだい」
「君が早く大人になればいいのに、って思ってたよ」
今更の種明かしに少年は舌打ちをこぼす。見上げた先にあった顔はまるでチンピラだ、なのに可愛いと思ってしまうのは昔を知ってるからか、それとも少年を理由もなく好いているからか。きっと、どちらもだ。
「……ずりィ」
「大人だからね」
今まで大人を盾に逃げて来たからか、口から言い訳のようにその単語がこぼれる。そのツケが回ってきたのか、私の唇は次の言い訳を口にする前に少年の唇に塞がれた。ぬるりと侵入してきた舌は口内を犯して、私の理性を一瞬で奪おうとする。
「おれも大人だから」
好きにしていいかい、なんて事後報告を受けながら私は少年とはもう呼べない男のシャツを握り締める事しか出来なかった。