短編
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わざわざ理由を探してその手を握る、最近は専ら冬の寒さを理由にして指を絡め合う。気取った言い方をして、お嬢さん、こちらに手を、そう言ってサンジは私の悴んだ手を自身のコートの右ポケットにお招きする。お互いに手を握りたいとは口には出さずに冬の寒さのせいだ、今日は冷えるね、と当たり前のような事を言い訳にして互いに手を差し出す。もう、これ以外の暖の取り方は忘れてしまった。サンジがいなくなったら、この手は熱を失い、サンジの熱を探して宙を彷徨うのだろう。
「冬が寒くて良かった」
貴方の有り難みをより実感出来るから、そう言って絡んだ指先はもう二度と離してもらえないんじゃないかというぐらいにギュッとサンジの指に絡め取られ、逃げ場を失った。
「ふふ、逃げないわよ」
「君がいねェと寒いから離れねェで」
「冬だもの仕方ないわ」
「違ェ、心が寒ィんだ」
隙間風を埋めるようにお互いのピースをはめた私達、ただの一ピースがいつの間にか心の大半を埋める程に大きくなってしまった。
「……雪、降んねェな」
煙草を咥えたまま、下唇を不満げに突き出してサンジは落ち葉を長い足で蹴飛ばす。
「もう、転ぶわよ」
「っ、はは、そしたらナマエちゃんも道連れ」
繋いだ手にキスを落としてサンジは子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「転んだって私の下敷きになるくせに」
「レディの敷物になれるなら喜んで転ぶよ」
「いつか尻に敷いてあげるわ」
そりゃ、楽しみだ、と目尻を垂れ下げたサンジは繋いだ手をブンブンと振りながら鼻歌を歌いながら隣を歩く。少しだけ音程が狂った鼻歌をBGMに歩を進める、私のヒールとサンジの革靴が同じ歩幅でわざと時間を掛けるようにゆっくりと進んで行く。
冬の景色に浮かぶ金色を目に焼き付けるように隣のサンジに視線を向ければ、同じようにこちらを見ていた碧眼と目が合う。
「なぁに?」
「サンジこそ」
「季節を見てたんだ」
「季節……?」
そう言って首を傾げる私にサンジは眩しいものを見るかのように目を細めて、柔らかく口元を緩めた。
「君がいる季節」
君の赤くなった鼻の頭、マフラーに埋めた口元、冬の夜空に溶け込んじまいそうな瞳、冬をあったかくしちまうその可愛らしい笑顔、それがおれの冬の景色だ、とサンジは言う。
「それに繋ぐ理由が欲しくて手袋不在の白魚のような左手」
春も夏も秋も君を見て知るんだよ、季節が美しいって事、そう口にするとサンジは私の手を引いて、歩き出す。
「……もしかして、照れてる?」
「君の方がほっぺが真っ赤だよ、レディ」
「貴方は耳が真っ赤よ、サンジ」
少しだけズレた歩幅が互いの動揺を匂わせる、早い、早い、と笑った私の手を引いてサンジは普段よりも広い歩幅で前を歩いていく、だが、その手は離れず、私の左手をギュッと握っていた。