短編
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空を裂くような轟音に私は顔を顰める、ピカピカ、ゴロゴロ、本当にそんなチープな音だったらどんなに良かったか、と私は化物の唸り声にも似た雷鳴が轟く度に驚いた猫のように肩を跳ね上げる。その度に私の座椅子と化したサンジが私の耳を押さえながら、可愛いなァと的外れな感想を口にする。そのニヤついた顔が腹立たしくて、サンジの脇腹を軽く拳で殴る。しっかりと鍛え上げられた分厚いサンジの体に私のヘロヘロなパンチなんて効く筈もなくサンジは垂れ下がった目元を更に下げただけだった。
「……だって、雷苦手なんだもん」
しかも、海の上だし、と泣き言を漏らす私の目尻にサンジの細長い指先が触れる。そこで始めて自身が泣いている事に気が付いた、雷程度で泣くなんて面倒臭いと思われただろうか、しかも八つ当たりのように殴ってしまった。どんよりとした雲と一緒に私の気持ちも裂けた空のように沈んで行く。
「ナマエちゃん、こっち」
サンジは私の両手を引き、私の意識を自身に向けさせる。
「おれに集中して」
私はサンジの言葉にコクリと頷くと、その隠れていない碧眼と視線を合わせる。いい子だね、そう言ってサンジは私の唇に自身の唇を重ねた。雷鳴が轟く度に優しく手を引かれ、こっちだよと何度もその柔らかな唇がサンジの存在を教えてくれる。恐怖心で固くなっていた体からは力が抜けて、安心したような笑みがこぼれた。
「君の弱点を知れて嬉しいと思うおれは酷い男だね」
「もう」
言葉とは裏腹にやけに穏やかな顔をしたサンジはそう言って、私の頭を自身の胸板に抱き寄せた。規則正しい心臓の音に耳を澄ませながらサンジの出方を窺っていれば、耳元にリップ音が響く。
「君だけ、ってのはフェアじゃねェよな」
甘い声が鼓膜を撫でるように発せられる、そのむず痒さに自身の耳を押さえようとすれば大きなサンジの手によって妨害に合う。
「ここだけのオフレコなんだが」
おれの弱点は君だよ、レディ、そう言ってサンジは酷く甘い顔をした。
以前に他人が話していた事を思い出す、恋愛は雷のようなものだ、と。あの当時は苦手な雷と同列なわけがないと思っていたが、どうやらあれは間違いではないらしい。甘い痺れに身を委ねて、私達は今ここで恋をしているから。