短編
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大丈夫だよ、そう言って笑えば皆それ以上は踏み込んで来ない事を知っている。泣きたい時もしんどい日も大丈夫、そう言って笑えば自身すら騙せる気がした。なのに、サンジだけは違った。
「レディは嘘を纏って美しくなるっつーけどさァ、おれの前では脱いでいいよ」
何十にも重ねた大丈夫のベールはサンジの一言によって剥がれてしまった、その代わりに被せられたサンジのスーツは煙草の香りとサンジの香水の匂いがした。いつもこうだ、大丈夫と突き放してもサンジはこうやって私の領域に入って来て、駄目な私を拾って抱き抱えてくれる。
「おれは君の大丈夫じゃないが聞きてェなァ」
「……変な人」
「そうだよ、おれは変だから君に困らされても平気」
君の駄目の一言で折れたりしねェよ、とサンジは両手をポケットに入れてニシシと歯を見せて笑った。その顔を見ていたら悩んでいるこっちが馬鹿みたいに見える、私はサンジに被せられたジャケットの裾を握り締めて喉に詰まった言葉を吐き出してみる。
「私ね、今あんまり大丈夫じゃない」
笑う気分じゃないし気を使えるほど余裕なんてない、と普段だったら無理に咀嚼して飲み込んでしまう本音を吐き出せば頭上から柔らかな声が降ってくる。
「よく出来ました」
何も出来てないのにおかしな事を言う、なのに涙腺は馬鹿正直に緩んで頬を水滴で濡らす。駄目な私を掬い上げるようにサンジは私を横抱きにすると、軽い足取りで甲板を蹴る。
「わ、え……?」
サンジは内緒話をするように声を潜めると、空に逃げちまおうよ、と口にした。空に逃げる、そんな考え方も空を逃げ場にするのもサンジがいなきゃ出来ない。
「……サンジがいなきゃ駄目じゃない」
「はは、そこは我慢してもらって……」
眉をハの字にしたサンジはそう言って肩を竦める、私は頬を濡らしたまま、そんなサンジがおかしくてサンジのシャツに顔を埋めたまま笑った。
「ねぇ、サンジ」
「ん?」
「泣かしたんだから責任取って」
「エッ、結婚って事……!?まだ、早くねェかな!?おれ達、お付き合いもまだだよ!?」
的外れな台詞を吐きながらサンジは一人暴走する、そんなフラフラしていたら二人で海にダイブする日も近いかもしれない。
「サンジはレディだったら誰でも空中散歩に連れ出してくれるの?」
「はは、君限定だよ」
君は天使だから地上より空の方が息がしやすそうだ、とサンジは言う。
「翼がないのに?」
「おれが翼になるよ」
サンジは私をしっかりと抱えたまま空を舞う。夜空をバックに自由に飛び回るサンジの見えない翼が駄目な私の心までゆっくりと浮かしてくれるようだ。
「ありがとう、サンジ」
どういたしまして、と羽を広げた天使に心を奪われたのは傷心だったからか、それとも天使の底抜けの優しさのせいか。
「……後者かしら」
「なぁに?ナマエちゃん」
「女は優しさに弱いって話」
それ以上は空中散歩が終わって地上に着いたら教えてあげる、そう言って私は浮上した心に宿った可愛らしい恋心を抱いて夜空を見上げるのだった。