短編
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仕事行きたくない、そう言いながらも手は休む事なく自身の顔面を作り上げていく。鏡越しに目が合ったサンジは、嫌なのに起きてエライ、化粧してエライ、と私の全肯定マシーンになって数日ぶりの出社を応援してくれている。
「……もっと、サンジといたかった」
年末年始の間はご時世柄もあり、二人だけで過ごした。誰の邪魔も入らない空間は尊く、この平穏が続けばいいと密かに願った。だが、時は無情だ。元旦が過ぎて、二日が過ぎ、三が日はあっという間に終わりを迎え、未だに正月気分でいる私を社会に送り出そうとする。昨夜から嫌だ、嫌だと騒ぐ私にサンジは嫌な顔一つせずに、おれも離れたくねェなァ、と百点満点の答えを寄越した。
「帰りさ、駅まで迎えに行こうか?」
サンジはそう言って私の髪に指を通す、ストンと下りた髪に触れてそのまま旋毛にキスを落とした。会社ではなく駅まで、それすら私の性格を理解してくれていて嬉しくなる。
「お願いしてもいいかしら?」
「勿論」
君を迎えに行ける権利をくれてありがとう、と甘い笑みを向けられる。そのトロトロとした蜜のような時間に溶けていたい、満員電車ではなくサンジの膝の上に乗って、都会の喧騒とは程遠い柔らかな低音に鼓膜を揺らしたい。
「っ、くく、もう帰りたくなっちまった?おれの腕に」
両腕を開いてこちらを向くサンジ、誘惑に抗おうと視線をプイッと逸した私におかしそうに笑うと、えいっ、と可愛らしい声を発して私の体に抱き着いた。
「……行かしたくねェな」
茶化したままだったら良かったのにサンジは心底そう思っていますといった切なさを言葉に滲ませてそう口にした、ただの半日のお別れが寂しいと思う日が来るなんて私は知らなかった。
「あー、クソ、おれの方が寂しいって思ってるのがバレちまうな」
情けねェ、とサンジはそんな己に苦笑いを浮かべると膝を折って私の額にコツンと自身の額をくっつけた。
「君の寂しがり屋が移っちまったみてェだ」
「ふふ、言い掛かりよ。元々、寂しがり屋のサンジくん」
「はは、違いねェ」
そう言って、寂しがり屋の二人は家を出る時間まで互いの熱を分け合うようにぎゅっと抱き合うのだった。