短編
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連日、夢に仲間の一人であるサンジが出て来る。起きた時には夢の内容やシチュエーションは覚えていない、ただ、サンジと自身が良い関係であった事だけを覚えている。甘い眼差しにカサついた指先、そんな些細な事ばかりが記憶のようにしっかりとあるのだ。そんな夢を連日見ているせいか、サンジの前だと変な態度を取ってしまう。
「ナマエちゃん?」
「……あ、えっと、ごめん。何の話だっけ?」
顔を覗き込んでくるサンジの視線に耐えられなくて、私は自身の組んだ指先に視線を落とす。どうしたの、と鼓膜を優しく撫でるような低音が静かな空間に落ちる。
「何でもないの、ちょっと疲れてるだけ」
疲れてる、の一言で眉を精一杯下げるサンジ。心配を掛けているようで申し訳なくなる、だが、解決策も夢の意味も分からない現状では教える事は出来ない。
「リラックス出来るようにハーブティーでもどうかな?」
「……お願いしようかしら」
途端にパァと表情を明るくするサンジは見ていて気持ちの良い男だ、良い意味で分かりやすく、その柔らかい姿勢は見ていて好感が持てる。
「サンジ、ありがとう」
「どういたしまして、レディ」
今日も夢を見た、内容は相変わらずしっかりとは覚えていない。ただ、まだ目覚めたくないと思ってしまったのだ。そのカサついた指先に指を絡ませたいと、甘い眼差しの先にいるのは自身が良いと願ってしまった。もう、答えはずっと出ていたのかもしれない。鈍く、いや、鈍いフリをしていた私に事実を叩き付ける己の潜在意識だろうか。
「……好き」
口に出せば、二文字で済んでしまう恋は数夜に渡って私に気持ちを自覚させた。自覚した所で行動に移す気も無ければ、そこまで肝が据わっているわけでもない。このまま、悶々と考えて、また夢を見て、朝を迎える日々を過ごすのが目に見えている。
目元の影を濃くした私を見て、まぁ、と声を上げるロビンに黙秘を貫いて朝からコンシーラーを塗り込む。我ながら今の私は酷い顔をしている、と思う。チョッパーやサンジが見たら大袈裟に顔を曇らせて、どこか悪いのか、と尋ねてきそうだ。
「(……恋してる顔よ、って言ったらどう思うんだろ)」
貴方に恋をして寝られなくなった、と伝えたらサンジは鼻血を出して目をハートにするのだろうか。そういう面ばかりが目立つ男ではあるが本気の気持ちにはどう答えるのだろう、最近はそんな事ばかり考える。
恋をして、夢を見て、朝を迎える。夢は段々と色付き、鮮明になっていった。朝になっても脳内に保管されたまま現実とは違うサンジとの甘い日々を私に当てつけのように見せてくる。
「……もう、放っておけねェ」
「えっと、何か言った?」
夢を引きずったままの私の手を引き、サンジはソファに座り込んだ。手を繋がれたまま立ち尽くす私をジッと見つめて、サンジは自身の膝を叩いた。ここに寝て、と。
「どうして?」
「眠れてねェんだろ、その顔」
絡めていた手が解けて、私の目の下をサンジのカサついた指先が撫でた。
「んー、寝てるよ。ただ、ちょっと目が覚めちゃうだけ」
サンジもそういう日あるでしょ、とサンジの隣に座り、なんて事のないように答える。普段の砂糖を砂糖で煮詰めたような態度は鳴りを潜めて、サンジは真面目な顔で私の肩を抱き寄せて自身の膝に私を寝かせた。
「悪ィけどさ、今回は誤魔化されてやれねェよ」
君が大事だから、そう言ってサンジは私の目元に蓋をするように手を翳した。
「悪い夢はおれが蹴り飛ばしてあげる。眠れねェ夜はおれを呼んで、ナマエちゃん」
「……蹴らないでいいの」
「どうしてだい?」
「好きな人の夢だから」
毎晩、幸せなのは本当なの、と私はサンジの手に自身の手を重ねる。夢と同じ体温に柔らかな低音、だが、これは現実だ。ちゃんと終わりが来る、サンジが拒絶するだけで夢はパッと消えてしまうのだ。
「……私ね、サンジが好きみたいなの」
目を覆うサンジの指の隙間からチラリとサンジの顔を覗く、鼻血を吹き出していない整った顔に通常の瞳。ハートなんて浮かびやしない現実に私はやっぱりと一人納得した。
「……そいつはおれじゃねェよ」
サンジは追討ちを掛けるようにそう口にした、そんな事とっくに理解しているのに本人の口から言われるとやはりキツイものがある。
「そいつがおれだったら、夢から覚めて早くキッチンに行けって君の背中を押している筈だよ。君の夢を現実にさせようと必死になる筈だ、おれ自身の為にね」
「サンジ自身の為……?」
「君と夢みてェなロマンスをおこしてェ」
勿論、現実で、と付け加えたサンジは私の顔を見て、穏やかな笑みを浮かべた。夢で見ていた男よりも柔らかな雰囲気を纏っているサンジは私の髪に指を通しながら、こう口にした。
「夢にしねェで、おれを」
「……サンジの気持ち、聞いてない」
「数え切れねェ日数、君を夢見て来たよ」
だから、君が数時間寝てもおれは待てるよ、とサンジは私の頭を撫でて、自身の細長い小指を私の小指に絡める。
「起きてもここにいるから。おやすみ、レディ」