短編
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怪我をした、階段で足を滑らせて受け身に失敗した私の左腕は見事に折れていた。綺麗に折れていますね、と言う医者の言葉に苦笑いを返しながら、これからの事を考える。これからの事といっても、別に日常生活は問題ない。痛くても多少我慢すれば、利き腕ではないしどうにかなるだろうと楽観的に考えている。だが、それよりもどうにかならない事がある。
放置していたスマートフォンを開いて、メッセージアプリを開けば、やっぱりどうにもならなそうだ。一番上にある恋人の名前の横には恐ろしい数のメッセージ数が表示され、今も手の中でポコン、ポコンとリアルタイムにメッセージが送られている。
「……やっぱり送らなければ良かったかしら」
病院に行く前に一言だけメッセージを送った事を後悔した、だが、送らなくても夜にはどうせバレてしまうのだから結果は一緒だ。私は何百件という脅威のメッセージ数に、大丈夫だから仕事に集中しなさい、とだけ返してスマートフォンをバッグにしまった。
ちゃんと定時ピッタリに帰ってきたサンジはもう酷い有り様だった、よく此処まで無事に帰って来れたわね、と言う私にサンジは半泣きでジジイに送ってもらったと返す。
「……腕、痛くねェ?いや、痛ェよな、折れてるんだもんな……っ、ぐす、何で、おれは仕事なんてしてたんだ…ッ、痛かったよな、不甲斐ねェ彼氏でほんっと、すまねェ、ごめんね、ナマエちゃん」
謝罪しながら、しくしくと涙をこぼすサンジ。私は無事だった右腕をサンジに伸ばして、サンジのせいじゃないわ、とそのサファイアのような瞳から流れる涙を拭う。
「だっでよお……ッ、ナマエちゃんが痛ェのやだもん、うぅ……」
「ふふ、もう可愛い顔が台無しよ」
サンジのぐしゅぐしゅな顔にティッシュを押し当てるとサンジは自分でやるからと言ってティッシュを受け取った、ナマエちゃんは何もしないで、とあわあわと落ち着かない様子でストップを掛けてくるサンジには私が全身骨折したように見えているのだろうか。怪我したのは左腕だけだというに、サンジは私に触れないようにしてくれている。
「私が怪我したのは左腕だけよ」
「ナマエちゃんの左腕が……ッ……」
「もう〜〜話が進まないじゃない」
めそめそ泣き続けるサンジの涙でそのうち部屋が海になってしまいそうだ、と私は柄にもないことを思う。
少しだけ落ち着いたサンジに私は一つのお願い事をした、お風呂を手伝って欲しい、と。
「風呂……?」
サンジは目を見開いて石のように固まった。
「あんなに裸を見せ合った仲じゃない」
すり、っとサンジに擦り寄って冗談を口にする私にサンジはタジタジになる。まるで生娘のような反応をするサンジにくすっと笑みをこぼせば、ナマエちゃんのえっち、とまた可愛らしい文句が飛んでくる。
「残念ながら左腕がこうだから、サンジのご期待には添えないんだけど手伝ってくれるかしら?」
「君の腕が完治しても、って契約でどうかな?」
契約なんて色気がないわね、と笑う私の耳元でサンジは砂糖を煮詰めたような甘い声でこう囁いた。
「ナマエちゃんのかわいいダーリンからのおねがいだったら、どうかな?」