短編
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月のスポットライトが無言の二人を照らす、お互いの気持ちが繋がったままの手から流れ込んでくるようで、つい離れ時を見失う。
「あー、帰りたくねェな」
「同感」
そんな事を言う彼女が物珍しかったのか、サンジは片目をまんまるにして隣を歩く彼女を見つめる。それに対して彼女は肩を竦めて、こう答える。
「……私だって名残惜しいわよ」
「来年なんて直ぐじゃない、って言うかと思ってた」
あと、片手程の日数で今年は終わる。そして、今年会えるのは今日が最後の二人。片方は仕事、片方は遠方の実家に里帰り。どれだけ寂しがっても二人は今日が恋人納めなのだ。
「君のご両親にご挨拶したかった」
「やだ、恥ずかしい」
おれはいつでも行けるけど、とサンジは言う。それはその場のノリではなく、彼女が思っているよりもサンジは先を考えている。こうやって恋人納めをしなくていい関係を見据えているのだろう。
「また今度ね」
「そりゃ、楽しみだ」
終電の時間だって迫っているのに、二人の足は中々ここから動こうとはしない。彼女のマンションの前で冷えた風を体に受けながら、ぽつり、ぽつりと言葉を交換する。中身が無い話題を引き伸ばして、くだらない事で肩を寄せ合って笑う。
「サンジ、終電無くなっちゃうよ」
「君が部屋に入ったらおれも帰るよ」
サンジは心配性でドのつく過保護だ、彼女が部屋にしっかりと入ったのを見届けてメッセージアプリにメッセージなりスタンプなりが送られてくるまでサンジはいつもここで番犬の真似事をしている。ひとり暮らし!?何でそんな危険な事をしてるんだい!?と以前、言われた時は彼女も呆れを通り越してその大袈裟さに笑ってしまった。
「電話してね」
「あァ、ラブコールで寝かしてやれねェかも」
「着信履歴がサンジで埋まっちゃいそうだわ」
容易に想像出来る光景に彼女は眉をハの字にして笑った、今だって似たようなものなのに年末年始の会えない期間でサンジはどれだけ暴走するのだろうか。
「……なんか、失礼なこと考えてねェ?」
「黙秘します」
「可愛い顔しても誤魔化されねェからね」
「本当に?」
途端に、うっ、と発作を起こしたように自身の心臓を押さえるサンジ。無理だ、おれには無理、と一瞬で絆されて体を軟体動物のようにクネクネと動かしている。
「今からサンジが絶対断れないこと言っていい?」
「うわ、この流れで!?」
うん、と頷いた彼女はサンジのコートの端を摘んで、今日泊まっていけば、と素っ気なく誘いをかける。
「着替え、前に置いて行ったでしょ?職場までそんな遠くないし、ここ」
サンジを帰さない言い訳を次々に並べる彼女、自身の必死さに照れが勝ったのか途中から視線が自身の足先に集中する。そんな彼女の可愛らしさが命中したサンジは顔半分を手で覆って天を仰いでいる。
「う……可愛い、もう、キャリーケースに詰められて君の実家までお供してェぐれェに可愛い」
「?」
サンジの荒ぶりの原因に気付いていないのか彼女は首を傾げて、サンジを見上げる。
「君と恋人納めしたくねェって言ってんの」
明日までとは言わねェで四六時中、君の事で頭ン中いっぱいにしててェ、とサンジは言う。サンジは甘えるように彼女の首に腕を回して、その華奢な肩に擦り寄るように頭を預ける。
「……明日の朝、グズっても許して」
「ふは、なにそれ」
「君と離れたくねェって成人男性が玄関で転げ回るかも」
サンジが言うと冗談に聞こえない、大袈裟という言葉以上に大袈裟な愛を振り撒くサンジならそれぐらいはするだろうと思ってしまうのだ。
「再来年は一緒に帰ろっか」
サンジが泣かないように、そう言って彼女はサンジの金髪頭を抱き締めた。この大袈裟でドがつく過保護な恋人を何て紹介しようか、彼女の年末年始の脳内会議の議題がたった今、決まったのだった。