短編
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時計の針がテッペンを越える前にサンジのスマートフォンに彼女から連絡が入った。へべれけとまではいかないが、一、二杯とは言い切れない酔っ払い特有のハイテンションでサンジの名前をスマートフォン越しに叫ぶ彼女。背後からも賑やかな声が聞こえるという事はこの状態で一人にはなっていないらしい、少しばかり警戒心の薄い彼女が酔っ払った状態で一人で街を徘徊だなんて想像しただけでサンジの胃が悲鳴を上げる。つい、痛くもない胃の辺りを労るように手で擦ってしまう。
「サンジ、お迎え来て」
「勿論そのつもりだよ」
「流石、私の旦那さん」
自身の発言に照れた酔っ払いは、キャー、言っちゃったと甲高い声を上げて楽しげに笑っている。
「困った奥さんはいい子で待っててね」
サンジは厚手のコートに袖を通すと、玄関にぶら下がったキーケースを雑にポケットにしまいこみ、革靴に足を突っ込む。はーい、という良い子のお返事を残して通話はプツリと切れた。あちらは酔っ払いだ、会話が成立するだけまだいい、と苦笑いをこぼしてサンジは玄関のドアノブに手を掛け、寒い空気の中に飛び出した。
車を走らせて二十分、彼女がいる筈の居酒屋の入り口が見えてきた。どうやら言いつけ通りに中でちゃんと待っているようだ、外にはサラリーマンや大学生グループしかいない。
「あんな所で待ってたらナンパの餌食になっちまう」
サンジは駐車場に急いで車を停めて、彼女を迎えに行く。ミラーに映った自身の必死な顔に、ダセェな、と呆れたように口にするが実際は彼女に対して必死になれるこんな己も嫌いではない。店内に入ると入り口の近くに彼女の姿を発見する、その見事な赤ら顔に、あの後にも呑んじまったんだな、と特徴的な眉をハの字にしてサンジは笑うと友人の肩に寄り掛かってウトウトと夢に片足を突っ込んでいる彼女に近付く。
「どうも、素敵なレディ達。そこの眠り姫のお迎えに上がりました」
何度か顔を合わした事がある彼女の友人達に手本のような畏まったお辞儀をするサンジ、ほぼ寝こけている彼女を起こそうとその華奢な肩を揺らす友人の一人。
「いや、起こさねェで大丈夫だよ。おぶっていくし」
彼女を背中に乗せてくれるように頼むとサンジはその場にしゃがみ込んだ。だが、背中に来た衝撃は別のものだった。さんじくんだー、さんじ、と舌っ足らずな彼女の声と腹に回された腕。何度も自身の気を引くように呼ばれる名前にサンジは律儀に返事を返しながら、彼女の手を自身の首に誘導する。
「そ、君のサンジくんだよ。レディ」
「なんで、ここにいるの?」
「君の声がおれを呼んでたから、かな?」
すごーい、と幼子のようにケラケラと笑う彼女の体をしっかりと背中に固定して彼女のバッグを友人達から受け取るサンジ。
「また、うちの奥さんと遊んでやってね」
酔い潰れない程度に、そう言ってサンジはくしゃりとした笑みを浮かべると背中の酔っ払いの相手をしながら店を後にするのだった。